*夢解きの始め方~『やさしさの夢療法』まえがき

原田広美

◎自分の中のすばらしさに向かって、扉を開き続けようとする人々に本書を捧げます。

 私達夫婦は夢のワークを始めて八年めになります。朝起きるとすぐに夢をノートに書きとめておく、「夢日記」を毎日書いています。夢は関心を持ち始めると、朝起きた時に思い出しやすくなります。そして「夢日記」をつけておくと夢を忘れずにすみますから、それを用いて夢のワークをするわけです。夢は短くても長くても、また古くても新しくてもワークをすることが可能です。

 夢のワークとは、夢を使って自分への深い気づきを得たり、心を癒したりすることです。夢占いや夢分析、夢を解釈することとも少し似ていますが、夢を見た本人が、その場で体験的にその夢が表現しているものは何なのかを実感していくのが特徴です。

 心理療法がベースになっていますが、特に心身に不調和がある人だけを対象にしたものではありません。心身に不調和がある人にも役に立ちますが、自分を知り、自分らしさを生かして、いきいきと生きていくことに関心を持つ、すべての人への手助けとなるものです。

 ワークでは、夢のストーリー、夢に登場した場所、人、物、状況、また夢の中で自分は何を体験したのか、夢の印象、それらについて、まずはカウンセリング的に尋ねます。初めは何のことか、さっぱり分からなかった夢が、少しずつ解け始めます。夢のワークの場では、セラピスト(ワークをリードする人)とクライエントとの一つ一つのさり気なく見えるやり取りが、ぐんぐんと内面の世界に意識を広げる役割を果たします。そして日常の自分が気づいたり、感じたりしている、感受性の幅を徐々に越えていくことが可能になります。

 夢のワークの場は、自分の内面に対峙する、非常にピュアな場です。そしてリラックスした中での集中と、純粋さ、神聖さ、そして好奇心、冒険心、遊び心、探求心などがまじり合った場です。私達はその中で思いがけず、夢が表現している内面の世界に深く触れることができます。それはたとえば、隠し絵の中から隠されていた絵を見つけ出していく時のようなものです。感受性が柔軟に開きながらも集中している場の中で、夢が語りかけてくれている内容が分かっていきます。

 ですから、夢のワークの気づきというのは、単なる夢の解釈や恣意的なこじつけとは全く次元が異なります。夢を見た本人が、ワークの中で自分からその意味に思い当たるのです。「ハッ」とするような発見を積み重ねながら、私達は通常少なくとも三十分~一時間程かけて一つの夢のワークを進めます。その時に、セラピスト側からの解釈を押しつけたりすれば、ワークはそれ以上、深まらなくなってしまいます。ワークをしている時にセラピストが、「もしかしたら、こんな意味ではないか」などと、感じたことをヒントとして言ってみることはありますが、基本的には夢を見た本人の実感が大前提になります。

 夢を見た本人自身が、夢の中に登場している一つ一つのものについて、何を表現しているものなのか実感していくのを確かめながらワークを進めます。そうした過程をへて、漠然としているイメージが少しずつ像を結んでいきます。初めは何についての夢なのか、さっぱり分からなかったところから、最後には、夢の創造主(大いなる自己)の意図を実感するところにまで至るのです。

 それが明確になりつつある時の様子は感動的です。思いがけないところから秘密の糸がほどけていきます。その間の様子を私達は「小さな悟りの連続」と呼んでいます。

 夢の表現方法というのは比喩に富んでいます。たとえば、「スリルはあるけれど安全」と言いたいのを「遊園地」と表現してきたりします。「自分の中に埋もれているけど、表に出たくてウズウズしている力」を、「公園の小山を割って突然出現した怪獣」と表現してくるかもしれません。「新しいやり方を始めてみたら?」というのを「新しいクツが玄関に置かれている場面」で表現してくることもあるのです。

 私達は初めて夢のワークを受けてもらう時に、よく次のようなウォーミングアップをします。「自分を食べ物にたとえてみると何になりますか?」と質問してみるのです。そこで「うーん」と考え込んでしまうと、なかなか答えられなくなってしまいます。ですから、とっさに浮かぶイメージで答えてもらいます。

 ある時、「自分は冷えた牛丼です」と答えた人がいました。冷えた牛丼というのがおもしろいので、「どうして、あなたは冷えているのですか」と尋ねると、「そうですねえ……」と一呼吸おいてから、「多分、変わっていることによって目立ちたい、食べてもらいたいのだと思います」ということでした。

 それで、「冷えた牛丼になった自分は、どういう気持ちですか?」と聞いていくと、「冷えていては、人目は引くが、食べてもらえない。だから寂しい気持ちです」という答えが返ってきました。そこで、さらに突っ込んで聞いてみると、「温かい牛丼になって食べてもらいたい」ということでしたので、イメージの中で牛丼になってもらい、自分を温めてもらいました。すると、その人の肌も赤くなり、ポッとしてきたようでした。そして、とてもリラックスした楽しそうな表情になりました。

 夢の中では、「冷えた牛丼のような自分」は、いきなり「冷えた牛丼」そのものとして登場してくるかもしれません。そして夢のワークでは、たとえばこの「冷えた牛丼」のイメージから、「人目を引くことには成功しているが、実は寂しがっている自分」を発見することになるのです。そして、その問題への対処法も、夢のどこかに、たいていは含まれています。

 夢のワークは、セラピストと自分という一対一の個人セッションの形でもできますし、ワークショップと称するグループワークの形で行なうこともできます。また夢のワークの具体的方法には、夢に登場してくるものについて質問しながら内面の世界に触れ、イメージワークなどを用いてやっていくカウンセリング的な方法の他に、夢を絵に描く作業を組み込んだり、サイコドラマ(心理劇)仕立てにして、夢の場面を再現してもらいながらやっていく方法もあります。

 夢のワークとは、意味の分からなかった夢のメッセージを明確にしていこうとする場であり、日常から一歩離れた特別な場です。そこでは、ワークから多くのことを得た経験があり、ワークへの信頼を持ち、人のワークのサポートに慣れているセラピストの存在が、場を深める働きをします。またセラピストは、自分についてのワークを積み重ね、感受性を広げて自分の内面についての気づきと傷の癒しを数多く体験してきている分、人の内面で起きていることに共感し、気づきや傷の癒しを促しやすい能力が開かれています。

 機会があればぜひ、セラピストのサポートを得ながらのワークを体験してもらえたらと思いますが、私達はこの本に、ある程度その代用をつとめてほしいと考えて書きました。この本の中では、夢のワークの仕方や注意点、夢のワークでどんな発見があったり、どのように人々が気づきを深め、自己解放し、癒されていくのかなどについて紹介しました。

 この本を参考にしながら、心を許し合える親しい人と、または自分一人でも夢のワークをしてみて下さい。この本が、そのための道しるべになってくれることを望みます。また、夢を含めた内面の世界のメカニズム、自己解放や、癒しの方向性も、できるだけ分かりやすく紹介したいと考えました。夢のワークはセラピー(心理療法)の一つであり、セラピーは自己解放や癒しによる自己成長を促します。ですから、夢のワークを通してセラピーの概要も伝わる本にしたい、と考えました。

 夢のワークで、一歩一歩、夢のメッセージに近づくのと同じように、ワークを一つ一つ積み重ねることによって、さらに大きな気づき、解放、癒し、自己変容がもたらされます。セラピーで起きてくるものは、その人の実存的な部分に根ざした、非常に確かさのある変容です。積み重ねによって、自己成長と人生への無限の探求を進めることが可能な魅力あるものです。そうした長期的な時間の流れの中でのセラピーの持つ意味も、できるだけ伝えたいと思いました。

 夢のワークは、慣れれば毎日のように材料が提供されるので、とても続けやすいワークです。自分の夢への理解が深まり、夢の内容に敏感になると、必ずしも毎日ワークをしなくても、自分の内面へのチェックが容易に行なえるようになります。このおもしろさと深さに魅せられて、私達は夢のワークを続けてきました。内面へのチェックが上手になると、知らないうちに自分に無理をさせたり、ストレスをため込んだりするのを防ぐことができ、しかも人間関係、自己イメージ、仕事、自己実現、いきいき度、やすらぎ度、充実感、健康面など、毎日のことがあたたかい良い方向へと動き出します。それは結局、自分に対して真にやさしい心のケアをしてあげることでもあるのです。

 セラピーは、心身に不調のある人や、解決したい課題に直面している人にとっても有益ですし、そうでない人にとっても同様に有益です。

 私達は基本的には、その両者を分けて考えていません。とにかく、自分を内面から解放し、癒していくことで、自分にやさしくなれるし、人にもやさしくなれます。それは抑圧し合うことのない家族や社会を作り出すための一つの力になり得るものだ、とも思います。私達は、これらの内容を多くの人に紹介し、分かち合って行きたいと思っています。

 最後に、この本で紹介している夢のワークには、ゲシュタルト療法の夢のワークとアメリカのゲイル・ディレイニー博士のドリーム・インタビューをベースに、私達自身が体験し、学んできたさまざまな心の癒しの技法や考え方を含んでいることを申し述べておきたいと思います。

一九九四年 秋

原田広美  

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*本書は1994年に、フロイトやユングの選集を日本で最初に出版した日本教文社から刊行され、2022年に電子書籍化されました。

https://bit.ly/3EBq3rj(紀伊国屋書店/紙本&電子書籍)
https://amzn.to/3ImFWTK (Amazon/2023年3月中旬以降に電子書籍販売開始)

https://bit.ly/3SqaDfq (日本教文社)

*1990年代には、新聞広告や書店で本書を見つけたライターさん達の推薦を得て、女性誌の「ノンノ」「モア」「とらば~ゆ」「ミスティ」、「名前のない新聞」に取材記事が掲載されました。

*その他、発売直後に「健康現代」に紹介記事、2006年には『「夢」を知るための116冊』創元社にも、他の古今東西の夢の本と一緒に見開きで紹介されました。

*電子書籍は『やさしさの夢療法~自分を癒して解放するゲシュタルト・ワーク』で、サブタイトルが変更になっております。

◐3月23日までの(木)19:00~21:00、3月14日までの(火)13:00~15:00の【無料】Zoom プレ「アートセラピー実験工房」で、夢も扱います。

お問い合わせ&お申し込みは、ご希望日時を添えて下記へお願いいたします。https://madokainst.com/contact/

   

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