花と緑の癒し~「園芸療法」のお話〜(2)

柴沼敦子

 今回は、園芸療法とはどういうものかについてお伝えします。

 園芸療法を一言で簡単に説明するなら「花や野菜などの植物を用いて人の健康をサポートする」ということでしょうか。

 もう少し詳しく専門的に説明するとこうなります。

「園芸療法とは、園芸による健康増進と対象者の現在の健康状態とを理解して、対象者の健康増進につながる活動目標を設定し、合理的園芸プログラムを継続的に提供すること」

 そして、この園芸プログラムを提供する役割を担うのが「園芸療法士」です。 

 

 園芸療法士が、活動目標を設定し、そのねらいに沿った園芸プログラムを継続的に行っていく、というところがポイントとなります。

 

 さて、園芸療法の定義をご理解いただいたところで、園芸療法を裏付ける2つの理論について、今回は詳しくお伝えしようと思います。

1 バイオフィリア(Biophilia)仮説

 園芸療法を支える理論の根幹をなすのは、バイオフィリア仮説といわれるものです。

バイオフィリア(Biophilia)の、Bioは生命 、philiaは愛情のことで、生命愛と訳されます。

 

 バイオフィリア仮説とは、

「ひとは、生まれながらにして生命や自然を好み、自然、動物、植物との結びつきを求める傾向がある」

というもので、1998年にエドワード・ウィルソン(ハーバード大学教授)、スティーブン・ケラート(イエール大学教授)が提唱し、世界的に受け入れられている仮説理論です。

 

 例えば、花壇に植えられた花や花瓶に生けてある花を見て「きれい」「かわいい」「いやされる」などと感じ、隣に人がいれば「きれいね」と共感が生まれ、穏やかな気持ちになります。私たちが植物や自然豊富な公園に行くこと、植物を飾ったり育てたりすること、などもバイオフィリアの現れといえます。

 今日、公共空間、オフィス空間、日常生活空間に自然、植物を取り入れたバイオフィリックデザインが世界的にも注目されています。アメリカのアマゾン本社などがその代表格といえるのではないでしょうか。

 


【バイオフィリアと遺伝】

 ロジャー・ウルリヒ教授(テキサスA&M大学)は、人の進化論的観点から次のように述べています。

 一般にヒトの進化の大部分は、アフリカのサバンナ(草原)で起きたと考えられている

 〇サバンナの景観は奥行きと広がりがある

 〇平らな草地、木々が点在して見通しがきく

 〇肉食獣の脅威に間近で遭遇する可能性が少ない

 こうした環境は、危険に遭遇した後のストレス回復効果をもたらした。見通しがきき安全なサバンナの景観を好むヒトが、森林を好むヒトより生き残り、世界に広がった。この性質は遺伝的に今の私たちにも受け継がれている

 この観点を基にすると、園芸好きな人に限らず、緑はすべての人に効果的なストレス軽減手段となりうるといえます。

 

2 注意回復理論

 注意回復理論とは、「自然の中で過ごすと注意力が回復し、より集中できるようになる」という理論で、ミシガン大学の心理学者レイチェル・カプラン&スティーブン・カプランによって提唱されました。

 人は、「自発的注意」と「非自発的注意」という2つの注意を行っています。

自発的注意:人は自発的に何かに注意を向け続けると疲労し、ストレスがかかる

      言葉を使う思考、頭の中で考えごとをしているときはこの状態

非自発的注意:人は無意識に何かに注意を向けているときには疲労(ストレス)が回復する

       美しいものにひかれている、頭の中で言葉を使わずに感じている時の状態

 

 カプラン夫妻は、非自発的注意は精神的疲労を軽減する、ということを実験から明らかにしています。そして、精神的疲労を軽減する要素は、都市の景観より自然に多く含まれ、それらは注意回復要素と呼ばれています。

【注意回復要素】

(1)解放(逃避)

   日常生活やストレスのある生活からの解放=日常生活の遮断

(2)広がり
   別世界への広がり・展開

(3)魅了
   惹きつけるもの(花、葉、鳥、虫、水、光、風・・・)

(4)適合性
   人の特性に合ったしたい行動がとれる

 

 以上、2つの理論を基に、自然や植物と人間との相互関係を活用し癒しにつなげるのが園芸療法です。

 次回は、ストレス軽減、意欲回復、認知機能の維持・向上、日常生活に必要な能力の維持・向上、社会性の向上、生活の質の維持・向上など、いろいろな健康上の効果が期待できる園芸療法の実際について、お伝え出来たらと思います。