北條立記
大きな洋梨の上で、色々な果物がなる木を育てる女性。
その繊細な指で果物の手入れを行い、この世にないオリジナルな果物=ラ・パトゥーセウィシトスを育て作ろうとしている。
その果物は、食べるとお腹の中からほんわかして、目が覚めるような独特な香気が口の中に沸いてくる。
足の親指一本で軽やかに歩けるようになり、5秒、10秒ふわっと浮いて澄んだ空気を全身に浴びることができる。
その果物には、お腹の中の暖炉の薪のような働きがある。
胸の中には上空のように気流が起こり、頭の中では太陽のような明るい光が現れる。
そのため、一切の疲れも吹っ飛んで、世界をよく見渡せるようになるのだ。
女性はそういう果物を育てて、近所の子どもたちに振る舞いたいと思っている。
子どもたちが喜べば、大人も喜ぶ。
みんなが喜んだ状態になったら、女性は今度は洋梨の音をみんなに聴かせる。
洋梨の音は明るく、一つ鳴り終わったと思うと、やわらかくまた次の音が鳴り、掛け合いのように長く続いていく。
そして、そこにいる音楽家が、洋梨の音を曲として作り上げ、みんなの喜びを、永遠に残る作品に作り替えてゆく。
永遠に残る喜び。
その喜びに手を掛けると、さらにその上へと登っていけるらしい。
みんなが永遠の喜びの上に立って、ラ・パトゥーセウィシトスを食べて、足が軽くなって、ふんわり自由に浮いて、今まで見えなかった頭の上のものが見えるようになる。
そうすると、みんなが手を伸ばして届くようになるものがある。
みんなが頭の上に手を伸ばして届くもの。
それは世界中の人の手の感触だった。
世界の人のさまざまな手の温もりを感じられる。
それこそが洋梨の上で実現できる喜び。
女性はそのことを知っているから、洋梨の上に木を育て、その果物を作ろうとしている。
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