文学

南清璽

連載小説『天女』第四回

南清璽  私が、こんな風に御令嬢から頼られたのも、そう、その言葉を借りれば「人がよさそうな」という処か。もちろん、当初は、いわば煮え切らない、あいまいな態度を示してしまっていた。何分、伯爵家の令嬢故、向後も続くであろう、出奔などでやんごとな...
ゴーレム佐藤

夢日記『目覚めよと呼ぶ声あり』

ゴーレム佐藤  たたみかける仕事の雑多さに拘泥しながら、寄せては返す波のように繰り返し運行する星々の海に溺れかけていた。只々打ち続けるキーボードがかちゃかちゃと何かを訴えかけているような気がしたけれど、息をすることも忘れていた僕は自分の喘ぎ...
文学

書かれた―祖母  「家族譜」より

飯島章嘉 まず死を見に行く ここから始る コントロール出来る死をいただく 痴呆症の祖母から 空き家の前の側溝でつまずく 湿地帯とくねる道に隠される祖母 空き家の前の側溝でつまずく 痴呆症の祖母から ここから始る コントロール出来る死をいただ...
文学

小説的断章『イヴの煙』

求道鞠 ◇写真©松岡祐貴◇  あこがれはやはりまぼろしだった。あこがれの甘い残り香も消えた。  やおら烟草に手を伸ばし、火をつける。肺を軽いメンソールの煙で満たすと、胸にいつもよどんでいる、もったりした霧状の虚しさが、ふうわりなだめられる気...
文学

書かれた―叔母  「家族譜」より

飯島章嘉   耳の後ろが赤く膨れ上がり 朝焼けのように 蕁麻疹が広がる 意味の分からない 恐怖をかんじる 湿地帯の高い草の中で 白い水鳥の環視の中で 叔母は叫び声をあげる 白い水鳥の環視の中で 湿地帯の高い草の中で 恐怖をかんじる 意味の分...
南清璽

連載小説『天女』第三回

南清璽  確かに、ある種、無償の行いだった。だが、ここに高貴な動機があったのだろうか。敢えて、無償としたのは、昇華させる意味を持たすためだった。そう、あくまで無償の行いだったと。一方、臆面もなく、この昇華という言葉を使うこと自体、いわば自己...
ゴーレム佐藤

夢日記『闇の左手』

ゴーレム佐藤  寝ていたら背後から僕の手を取るものがいる。手を取られていることに気を取られていたら僕の足を掴むものがいる。  暖かい手はすがるように僕を掴んで離さないが、その力の握り方には微かな憎悪をも感じた。  聞こえるは静かな息遣いと指...
文学

詩二篇『家族譜』より「書かれた―姉」「書かれた―兄」

飯島章嘉 書かれた―姉  「家族譜」より 墓地へ駆けてゆく 姉を二階の窓から見た 学校の制服を隠したのを 姉のほこり臭い制服 血の付いた便器にしゃがんだ 汗のにじむ掌で鈍く赤い 姉の隠し持つ勾玉 汗のにじむ掌で鈍く赤い 血の付いた便器にしゃ...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂から』ー君のいる風景 Ⅳ

まどろむ海月(西武 晶) 深まる夕闇の中で 水底まで透きとおった 滑らかな黒の湖水に 斜めにさし通した櫂から 膨らむ波紋 滴る雫が 清澄の音階に流れつづけ・・ 静かに進む二人きりの小舟 君の影が波璃に映った 伝説の少女の白い指ように ああ ...
ゴーレム佐藤

夢日記『番号』

ゴーレム佐藤  玄関のドアにぶらさがる番号札、いつから下がっているんだろう。  部屋番号とは全く別の番号が手書きで書き記してある。となりの部屋をみるとやっぱり手書きの番号札がぶら下がっている。その隣も向かいも13桁の数字がぶら下がっている、...