まどろむ海月(西武 晶)

まどろむ海月(西武 晶)

 Ⅲ エフェクト

まどろむ海月 もうずいぶん昔のことですが 雲になって しばらく漂っていたころ  つめたい風にさらされて あてどなくさまよう 若い女性を見ました。 騙されて身も心も傷ついた恋の鋭い痛みに われを失っているのでした。 深い悲哀が 彼女の姿を霞ま...
まどろむ海月(西武 晶)

四つのファンタジー Ⅱ青空の神話

西武晶 昔々 いつまでもいつまでも青空が続き ついに空の青さが星空のむこうにとどくほど 深く窮(きわ)まってしまったことがありました 空は自分の痛々しいまでの青さのその窮みについにたえられなくなったかのように その孤高の極点に 真っ白な馬を...
まどろむ海月(西武 晶)

四つのファンタジー Ⅰ黒犬 

西武晶    「今度の遠足は、火山にしようと思うのだが……。」  「火山って、あの黒犬のですか!」  「そうだ。」  校長の硬い表情が、すこし上気しているのに気づいたが、ペータ教諭はすぐ、  「それは危険です。校長、あまりに冒険だと思います...
まどろむ海月(西武 晶)

詩と写真「星空の出来事」Ⅰ~Ⅵ

まどろむ海月(西武晶)  Ⅰ夜の頁 星空から あなたは振り返る  貴女はふりかえる  ともしびに重なる微笑み  細い指先 星座へと続く階梯は 途絶えたまま この小雨のように 降りしきるものは 何なのか  白い小径の途上で  かさねた出逢い ...
まどろむ海月(西武 晶)

詩と写真『ユーモアの森から』

まどろむ海月  1 夜と私 夜がやって来た挨拶がわりに手元にあったまたたびをさしだすとなんと 長い舌を出して べろっとなめ取った裏返しになってよだれを流しでろでろになったところを見るとどうやら 夜は 猫科らしいのが知れたしきりに もっとくれ...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂から』ー君のいる風景 Ⅳ

まどろむ海月(西武 晶) 深まる夕闇の中で 水底まで透きとおった 滑らかな黒の湖水に 斜めにさし通した櫂から 膨らむ波紋 滴る雫が 清澄の音階に流れつづけ・・ 静かに進む二人きりの小舟 君の影が波璃に映った 伝説の少女の白い指ように ああ ...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅲ

まどろむ海月 見上げた月は 皓々として 雪景色の深い谷の 底にまで 光を落としていた 白い中空の湯のなかで 魚のように戯れたね 紺青の空に 雲 高原の蒼空を 何日も さまよった 大空の神聖な変貌 永遠の高みへの 憧れと祈り その彼方に君はい...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅱ

まどろむ海月 午前の森の中に 七つの池を巡った エメラルド色を湛えた 太古の静寂は やさしい風をふくむたび 燦めく微笑みを見せた 僕たちの前の 永遠の現場 蒼空の中には 白い幻のように わきおこる思いと とめどないあこがれが その影を落とし...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂 から』

まどろむ海月 透明な道で すれちがった時 ささやいたのは 君だったのか… 「幸せの頂を見るのが 春の役目だ。」と 長い旅姿のままの 私の冬(かなしみ)よ 水面の きらめきが 遠くから 広がった 扇のように くりかえし くりかえし 君の 遠い...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『夏の楽譜』

まどろむ海月・詩、田中義之・イラスト Ⅰ 誰が投げたか 空の底に小石が一つ 果てのない青い花の野に 生まれたばかり白の風紋は旅立つ それは水溜りに揺れる夏の楽譜  硝子のまぶたに透ける午後 昼の月は淡く微笑む 飛ばした紙飛行機に 少年自身が...