怪奇心理小説『愛紅始め』『駒込白馬堂』

田高孝

愛紅始め』

 

 その子は、同級で、月一の定例のプラネタリュームを見に行く会のメンバーの一人だった。その会は、私が、提案し、中学時代に行なった。仲良し4人組である。

 いつも、駒込の上の方の改札で、待ち合わせ、日曜日に、渋谷の東急の五島プラネタリュームへと向かった。

 帰りは、歩いて、新宿へ出るフルコースを私が立案し、いつもの企画を楽しんでいた。どういう楽しみか、というと、新宿へ出てから、小田急の地下で、二軒回るのだ。最初は、イタリア製のソフトクリームを食べ、最後は、2階地下へ降りて、笹麺ミートというそばを楽しむのだった。

 

 その時の一人が、主役になる。

 

 彼は、高校の時、勉強して、二期校の埼玉大へ入っていた。私は、例によって、高校紛争の後、うまく慶応へ入り込んだのだが、体たらく。その彼が、「たこちゃんに会いたい」と言っているとのうわさを聞いていた。

 

 しかし、まあ、彼とは、こんな出会いもあった。

 私は、一級下に恋しい人がいたのだが、その彼女の親友にロシア系のハーフの双子の姉妹がいたのだ。まあ、ファッション・モデル界では、超有名な二人であった。

 この姉妹のことを、彼は、いつかこう言っていた。「おまんこ、やらせ放題の姉妹らしいよ。」と。拙いこと言っているな、と思ったが、まあ、気にしないでいた。

 

 まあ、大学も去って、私は、8年もいたが、自分の会社へ就職し、アメ横でうまく、行き始めたころか?

 駒込の駅のホームの上で、ばったり会った。朝だった、彼は、反対側の内回り線にいたが、私に気づいて近くへ来た。

 

「ああ、たこちゃん。ひさしぶり。」

 

「おや、○○ちゃん。ひさしぶり。」

 

「たこちゃん、俺、やくざに、バットで、殴られちゃったよ。」と言って、左の眼窩を見せてくれた。傷があった。大きな傷だった。そういえば、ときわ台で知り合った、経営コンサルタントの人も、そうだったな。かれは、警官隊にやられたと言っていたが。同じ場所にあった。

 目傷か?

 神経やられているのかな?

 かわいそうに。痛かっただろうな。

 

「どうして? やられたの?」

 

「うん。会社で、残業しているときに、襲われた。」

「どんな風に?」

 

「階段からだんだん近づいて来て、やられた。」「大声で、叫びながら近づいて来た。」

「正面から、バットを振り降ろされて、顔面を真っ二つだったよ。」

 

「そう?」「ひどいことするね。」

 

 そこへ電車がやってきた。

「じゃあ、○○、また会おうね。」

 

「たこちゃん、また会おうね。」

 

 

 そう、間に、一エピソード。

「俺,四谷さん、好きだったのだ。」

「そう?」「覚えているよ。」

 クラスで一番、「しこめ」だった子だ。

「ふ~ん。」

 

 さて、ここで、終わり。

 ここからは、創作に近いが、聞いてくれ。

 

 この○○は、彼は、ある建築会社へ務めていた。名は、言えない。中堅と言っておこう。ゼネコンではない。

 

 私のクラスには、美人は、さしていなかった。普通に、スカートめくりもあった。だが、文京区は、レベルがたかく、周りから、いい学校と言われていた。余り乱れもしなかった。

そこに、がり勉の有名な一人の女の子がいた。私も、からかって、度の強い眼鏡をしていたので、「メガネザル」などと言っていた。

 その子は、20歳の同窓会のときに、再会したのだが、実に、きれいな子に変身していたのだった。

 私は、目がくらんで、彼女の家へ行った。のちに。

 

 さて、駒込には、うちの親族がやっている喫茶店が、あった。そこで、いとこのお姉さんの一人に、ある時こういわれた。

 

「○○ちゃん。奇病で、死んだって。たかし。」

「孝が、良く、メガネザルとか言っていた、○○ちゃん」

 

「へ~。」「知らなかったよ。」

「奇病か?」

 

 さて、点と線は出そろった。

 

 もう、分かるだろう。

 ○○が、○○を襲ったことが。

 

 二人の家は、近かった。

 公園を挟んで。いや、公園は、遠くに、あったかな。

 

 心理分析はし切れない。彼のどこが悪かった? とか。ただ、私は、性愛の難しさを知った。アーメン。

 

 

駒込白馬堂―文房具店

 

その店は、私が、古河ガーデンマンションへやって来てから知った。中学の時だ。

家から学校、或いは、会社の行き帰りに会う文房具店。

その辺一帯の大地主の息子が、経営していた。

次男坊。

いつも、やる気のない返事をする人。

ため息をつきながら仕事をしている人だった。

 

この人と、深夜、会ったことがある。

その時、彼は、大きなドーベルマンを連れていた。

獰猛なその犬を太い革の綱で、ひきつれていた。

 

その人は、大人しいうえに大人しい人だったように、お見受けされた。

大金持ち、そして、気品のある貴族な方だった。

そして、また、昼は、ため息をつきながら営業されている。

 

その奥方が、また、変わっていた。

いつも、小学生のような癖を持っていた。

息を吐くのだ。口から。

其れは、良く、小学生が、舌を噛んだのではと思い、息を舌の横に宛てる癖。

空の空気を、舌ベロの横に宛てる、遊びに似た息の吹っ掛け方だ。

そして、この小学生のみっともない癖が気になっていた。私は。

 

そして、最近、このお父さんは亡くなられた。

50年は、お見掛けしただろうか?

そこで、気付いた。

この夫婦は、大学時代の同窓生で、結婚されたのだ。

ただ、この奥方は、自殺未遂した事があるのだ。

舌を噛んで。

 

その後遺症で、例の癖があるのだろう。

小学生が、下の横に息を吹きかけるあの仕草を、時折、見せる。