「幽体離脱できます」(散文)

いとう あきこ

 


 私は、金縛りの状態を利用してのみだが、幽体離脱ができる。

 とは言っても、完璧にできたのは高校生の頃、一度きりで、それから後は、わずかに体の一部が抜ける程度である。

 

 まずは、自分でも鮮烈な思い出である高校時代の幽体離脱について語ろう。

 私は、大学進学のための受験勉強を毎晩行っていたが、最初の頃は良く寝落ちしてしまい、目が覚めるともう朝だったりしていた。そこで、22時に一度寝て、0時に起き、2、3時まで勉強をして、また朝まで眠るとやり方に変えてみた。夜型の自分には合っていたようで、時々寝落ちするにしても、一定の学習時間は確保できていた。しかし、この方法には一つ問題があり、勉強が終わって二度寝をする時に必ず金縛りにあった。金縛り自体はそれまでにも経験があり、不思議の物や現象が好きだったから、特別感じるものはなかったのだが、背景が真っ赤な溶岩か血液のような色がうごめいていたり、更に腹部になおばあさんが座っていたり、幽霊のような何かしらの怖さがつきまとうのが常だった。そんな時は、お経を繰り返し唱え、眠りに入った。

 夏休みのある朝、学校がないので、遅めの朝のんびりと二度寝に入った。やはり金縛りにあった。あれっと、頭が水平より下にかなり下がっていることに気がついた。これは本で良く読んでいる「幽体離脱では?」と思った。「もしかして全身抜けられるか?」と思った瞬間、自分の意識は天井にあった。残念ながら自分の寝ている姿をしっかりと見た訳ではないがおぼろげには記憶にあり、空に浮いていることもわかった。よく地球の裏へも行けると言うから、「どこかへ行ってみよう、そうだ不思議話好きのT子のところへ行って、驚かせよう」と思った。部屋の入口付近から、窓の方へ泳ぐような感じで移動し、外に出た。庭の真ん中までは出られ、父親が庭の手入れをしているのも見えた。しかし、更に進もうとした時太陽の光がものすごく眩しく、視界が奪われ、「無理かもしれない」「もし自分の肉体から離れている間に魂の緒が切れたり、別の霊が入ったら、自分はどこへ戻るんだ?」『怖い!』と思った瞬間、肉体に戻っていた。思うように体が動かず戻ったことがわかった。そして、「もう一回できるか」と意識を上に持っていったが、もうできなかった。その後はあきらめて寝てしまった。慣れてしまうと、手足が上下するのは常となり、反対に「金縛りが解けて眠れないと睡眠時間が減る!」といらだちを感じるようになっていた。

 確証はないのだが、受験生~20代前半頃まで、つけっぱなしのラジオや目覚まし時計を何度も手を伸ばして消すのに消えていないことが頻繁にあった。最初は、寝ぼけて実際はスイッチを切れていないのだろうと思ったが、10回位スイッチを触り「よし、これがスイッチだ、押したぞ、確認!」と思うのに、消えていない事象は、手だけの幽体離脱だったのかもしれないと思っている。

 

 

 今でも年に数回だが、金縛りがあうことがあり、その時は、眠さより好奇心が勝り「よし!」と離脱のチャレンジを楽しんでいる。最初は、慎重に指先や体の一部を肉体から上げたり、沈ませてみたりする。無理に出ようとすると金縛りのままに戻ってしまうからだ。手や足の一部を沈ませたり、浮かせたりは比較的簡単に今でもできる。でも体を抜こうとすると苦しい。空気の圧力というか、すんなりとは出て来なく、力を入れて腹筋を使い起きる、または肉体から意識の形の体を引きはがす感覚だろうか。大抵、疲れて、途中で睡眠に入る。

 


 皆さんも、もし金縛りにあうことがあったら、普通は「脳と肉体のバランスが崩れている状態」と説明されるように、怖がる必要はないので、意識を天井などに持って行ってみてください。普段と違う体験ができるかもしれません。