詩画集『春の頂 から』

まどろむ海月

 

透明な道で すれちがった時

ささやいたのは 君だったのか…

「幸せの頂を見るのが 春の役目だ。」と

  長い旅姿のままの 私の冬(かなしみ)よ

 

水面の きらめきが 遠くから 広がった

扇のように くりかえし くりかえし

 

君の 遠い視線に ささやく

はにかんだように とりとめもない

 

風の言葉…

 

 

 

  君のいる風景 Ⅰ

 

夜の階段を昇って

出会ったね

 

空色のセーターと

風色のトレーナーを着て

出かけよう

雲と星の間の扉から 始まる

 

旅へ

 

 

 

森の中に

光をはらんだ

まっ白な朝霧が

流れこんだね

 

 

 

 

 

空中から見降ろした

故郷の街なみ

 

薄赤い花が散っていて・・

あの山上の春の中にも

 

 

 

 

フェニックスが茂る林に

幻のような野生馬の跡を追って

突然開けた真っ青な海

 

潮風を受けてたたずむ

透明な大きな瞳 に

いつか つつまれていた

 

 

 

 

 

思い出の函に入れる

夕暮れの結晶を求めて!

あの日も 風に吹かれ

長い草山の坂を走っていた二人

 

 

天と地を 一つに包む

銀色の霞の真中

岬の山上に 一日は

その壮大な空間を

黄昏れていった

 

 燈色の陽の記憶を残して

 

海からの風にさらされ

なびく春草を無心に食んでいた

野生馬達・・・

 

 

 

 

星が 海に 落ちたのか

夜空は はるかに 拡がって

星座の浮かぶ 闇の底からは

微かに 潮騒が 聴こえてくる

 漁り火が 北七星のように・・・

 

 

 

 

青島の海 空

荒々しい千畳敷 激しい波

風の遠景に立つ白い灯台

 

灯台に寄り添った細い君の

息遣いが伝わる・・

 

こうした 風景の彼方 なのに