夢日記『目覚めよと呼ぶ声あり』

ゴーレム佐藤

 

 たたみかける仕事の雑多さに拘泥しながら、寄せては返す波のように繰り返し運行する星々の海に溺れかけていた。只々打ち続けるキーボードがかちゃかちゃと何かを訴えかけているような気がしたけれど、息をすることも忘れていた僕は自分の喘ぎに酔って有頂天だった。いつも背後にいる亡霊が今日はお休みらしい。やけに肩が軽かった。脊髄の反乱のおかげでさまよえる脳髄に至近距離を飛び交う蝿が群がる、さながら蝿の王。僕という生首は孤独を耐え、そして救われないのだ。決して無機物達と一体化することもなくユートピアなど夢のまた夢。単なる音の排出器官としてアルゴリズムの奴隷に成り下がる。机の上を見るといつの間にか手足を生やした電話器やボールペンたちが醜悪な踊りを踊っている。粘液を撒き散らすマグカップに大口をあけて牙を向ける携帯電話。糸を引いてのたうつ煙草が僕の体にまとわりつく。奇声をあげて飛びかかる冷蔵庫を思わずよけると、そいつは今まで僕が座っていたベトベトの椅子とまぐわっていた。部屋は遠近法までが滅茶苦茶になりドアを閉めてある隣の部屋のコピー機までが僕の内臓と絡み合っている。およそヒトの形を成さない僕はこの混乱から抜け出そうとも考えず、いまやこの世界で最も美しい髭だらけのディスプレイとワルツにステップを踏む始末。受精した直後の僕自身の塊が部屋に充満してくる。それは色彩の乱舞をただ一色に塗りつぶし始め爆発して飛び散っても最早区別すらつかない。捻じ曲がる時間概念がすべてを同時に創出したかと思うと無を演出する。

 そして混沌が出来上がった。

 

 「儵と忽と時に相い与に混沌の地に遇あう。混沌これを待つこと甚だ良し」

  しかし人間の七つの穴があいたとき、死んでしまうのだ。

 

  口と鼻とそして耳と。

  感覚というものがせっかくの無秩序を蹂躙し始めるとまた繰り返しの日々が始まるのだった。

 

(夢日記)

 

ゴーレム佐藤の叫びチャンネル

ゴーレム佐藤の叫びチャンネル
ゴーレム佐藤またの名をアルチュール佐藤の叫びチャンネル 6年前にステージⅣの中咽頭がんを経てラップでもなくポエトリーリーディングでもない「叫び」ジャンルを確立。長い時は40分に及ぶ即興スクリームで世界を語ったり弄ばれたり。 基本的には役者だ...