ネコは寝ころびヒト育てⅤ

保延薫

 

7.

 ウチのネコは医者に掛かるとき、基本的にはご近所さんだった。一度緊急で入院した後はその入院先にずっと通った。予後を観察していただく必要が出てきたから。

 だんだんとお医者様や、医療研究者、医療機関に縁が出来たために、医療全般について考えることが増えた。

 対照的な医療研究者が居る。

 1人は立志伝中の人物で母との苦労話で著名となり本場アメリカのロックフェラー研究所で研究者となり、お札の顔になった。北里大学創設者ではない。

 もう1人は、実は私は図鑑の中でその功績を記した説明文と印象的な画の試験管でビタミンを抽出している実写的なイラストで覚えた。

 白米を常用していると掛かってしまう脚気(かっけ)という業病を治癒するビタミンを米ぬかから抽出したのだが、なんと翻訳ミスで肝心かなめのところが訳されず、彼の功績は埋もれてしまって当時の軍医の一番上で統率していた森鴎外にも顧みられず、当時の大日本帝国軍は、そのために前途有望な軍人達から脚気で亡くなる犠牲者を莫大な人数で出してしまった。

 実は、1人は有名でロックフェラー研究所にも属したが研究は失敗した、そして研究の最中亡くなり美談と讃えられた。

 脚気の原因となるビタミンを米ぬかから抽出した研究者は図鑑の中では活き活きと描写され無名ではあったが今、再評価されつつある。彼の功績はむしろ栄養学に活かされ現在の医学より広範囲に活用されている。

 今、天国から彼ら2人が地上を眺めるとき、2人のどちらがよりハッピー(幸福感)を感じるのだろうか?

 日本発OSTRONを開発した技術者は携帯他基本システムに活用され健在であり知る人ぞ知る存在だ。しっかり仕事をしているわけだTRONは。

 世界的OSを開発した1人は癌で痩せ細って亡くなり私もアップルストアに山のように供えられた花束達を見て彼の無念を偲んだ。

 もう1人は毀誉褒貶相半ば。

 ときどき思う。ハッピー(幸福感)とは?

 悪鬼羅刹の幸福感というものもあるが、大変な恨みを背負う、たとえ勲章もらっても、本当にハッピー(幸福感)をずっと感じるのだろうか。

 ゆっくり観てゆくしかないのだが。