詩)旅の途中で

飯島章嘉

いつの間にか 来てしまった
ここへ
聞こえる
誰かの呼ぶ声
声、音の震えが日差しを揺らしている
風?
風ではない
声 声が流れてせせらぎに浮かぶ草の葉をなぶる
水か 水ではない。それは水の声
私の声

もう聞こえない
何も
しかし
日差しが揺れている 風?
せせらぎに落ちた葉は流れていった

頭上を渡る声に目覚める
私には私ではない私が
そっと寄り添っている
暗闇にうずくまるとき
形ではない私がゆるやかにやって来て
光の傍らに立ちどまる
何にしても明るいものがあることは良い事だ
この世界のどこかで
ヒメジョオンの花びらが
部屋の隅においたコップにささり
幽かに炸裂しているのを感じる
これが私の来歴で
私の旅であるなら
心地よくパートナーの衣の裾を取ろう
朝方に出立するから よく乾いた革を羽織ろう
裏側に果てしもなく流れる落ちる水
喉元を下る水
朝焼けの色が井戸水に映り
水で幽かに示した唇
その唇が私を覆う時
私は絶景の中にいるだろう
私の待ち望んだその時だ
ゆくりなく涙を流し
濃い緑すら虫たちにゆずり
何度も何度も訪れた細い川 十字路 朽ちた屋根
がいつでも待っている場所
私が待っている場所へ
ドアを開けて