インクルーシブフェスティバル「りれいしょん」の反省と考察

北條立記

 

 本年(2023年)の7月に、私が副代表を務めるアーティスト団体「ジャスミンファクトリー」主催で、インクルーシブフェスティバル「りれいしょん」が開かれた。私はそこでチラシやパンフレットのデザインや運営業務を担っていた。

 本記事では、フェスティバルの実行に当たって取り組もうとしていたこと、メンバー間で考えていたことについて説明した上で、今後のことについて書いていきたい。

 

 インクルーシブとは、各種の「当事者問題」を抱える人を含め、社会は個性ある人々で成り立っている、という考えだ。

 フェスティバルでステージに立った出演者には、片耳が難聴でプロデューサー・団体代表の莉玲をはじめ、難聴のピアニスト、左手ピアニスト、精神障害を持つミュージシャン、トランスジェンダーの手話者などがおり、全員がカミングアウトしたかは別として、出演者にも運営者にも、何らかの障害があるか、マイノリティーとして生きる者が関わっていた。そして、お客さんにも聴覚障害者、身体障害者の方々がいた。

 そのため、特に聴覚障害者のお客さんを意識し、音楽には手話かダンスがつけられ、「音楽の可視化」が常に行われた。

 音楽の可視化とは、音楽を聴いて楽しむだけではなく、「見る」ことでも楽しむという考え方だ。

 代表者の莉玲は、作業所や作業所の運営する喫茶店なども周り、障害のある出演者を募ることも行なった。私自身も、精神障害者による劇団や障害者関係施設へ出演案内を出したりした。

 実際には、精神障害のある方は、その時の体調があるため、参加を確約できないという方が多く、障害者アーティストの出演は、限定的なものにとどまった。これには、イベント参加によるコロナの感染の懸念も含まれていたようだ。

 なお、インクルーシブは、障害者といわゆる健常者という括りだけではなく、LGBTQも含むマイノリティーの人間が、当事者としてぶつかる諸問題を乗り越えられる(理想としては、「当事者」のライフスタイルにも社会の基準が合わせられる)ようにするという理念である。

 そこには障害という話を含むのだが、障害という言葉が持ち出されると、障害者芸術、障害者の取り組み、といったことのみが想像されがちとなる。本当は、LGBTQなどのマイノリティーも含むのがインクルーシブの考えなのだが、想像されるものがそのように限られる傾向があるとすると、そのこと自体が、社会がまだインクルーシブではないことを示すのである。

 なお、本フェスの主催団体であるジャスミンファクトリーのメンバーの一人は、トランスジェンダー女性である。彼女の話によると、トランスジェンダーであることで、受け入れ医療機関(受け入れてくれる病院の病室)を見つけられず、医療を適切に受けられずに自宅で孤独死する可能性といった、生命に関わる問題があるのが、現在の日本であるということだ。

 

 今回フェスティバルの実施にあたり、神奈川県や川崎市といった自治体で運営されている障害者芸術関係団体にも問い合わせ、協力を仰いだ。

 結果としては、チラシをサイトに掲載してもらうにとどまる結果となった。運営協力や、他の類似団体と結びつけてくれるようなことも期待したが、ウェブ上のやり取りにとどまった。

 

 つまり以上のことから言える反省点として、昨年から活動を本格的にはじめた当団体ジャスミンファクトリーが、関係団体との結びつきがまだ十分ではなく、関係方面に接触し、協力や出演を取り付ける作業が、フェスティバルの実行までに、十分には間に合わなかったというのがある。

 

 今後としては、つながりを持てる団体を訪ねたり、自治体の関係団体ともやり取りをしたりして関係を深め、また、助成金やメセナやクラウドファンディングその他の集金方法にチャレンジし、事業として形作っていくことになると思う。

 それにより、「(マジョリティーだけではなく)マイノリティーの者にも社会が基準を合わせた社会」を作る働きかけを、社会に対して行うタイミングが、どこかでまた得られていくだろう。その「基準」というのは、バリアフリーを進めるという物理的なことももちろんであるが、各当事者の事情に応じたライフスタイルや精神的な在り方も含まれていく。

 

 ジャスミンファクトリーは、イベント運営と並行して、今後農地を取得し、農業を始める。そして、作業所などからも農作業のスタッフを募ったりすることで、農福連携の事業を行うことを予定している。

 情報発信の体制も、実はまだままならない状態にある。だが、長期的な取り組みとしてスタートしたばかりでもあり、また、そもそもインクルーシブという概念は、民間主導で限られた団体において扱われ、行政では扱う自治体は少ないことから、先行のモデルとなる事業も少ない。

 だから、これから時間かけて作り上げていくという形であり、長い目でやっていく次第である。

 

ジャスミンファクトリーHP

ジャスミンファクトリー
ジャスミンファクトリーは「インクルーシブ」を理念としています。“人と人の間の垣根をなくす”それをミッションとして、アート、エンターテイメント、農業、福祉などを連携させた活動をしています。

 

フェスティバル概要

「りれいしょん〜聴いて!観て!みんなで創るフェス!!〜」

開催期間:2023年7月24日(月)〜2023年7月30日(日)

会場:溝ノ口劇場

主催:ジャスミンファクトリー

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