AI甲子園を目指す高校生に伝えたいこと

浅野卓

 

高校生を対象としたAI甲子園という行事があります。高校生が、AI技術の基本を理解した上で、企業研究や地域イベントに参加し、一連の活動を通じて、研究テーマを設定し、AIを活用した発表を行うという仕組みです。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。

やまがたAI部ーAI部とは

 

AI甲子園の取り組みに際しては、地元企業がコーチ役として、高校生の研究活動をボランティアで支えています。

 

さて、先日、コーチ役に誘っていただき、出場予定の皆さんに、活動を始めるに当たって私が考えていることをお話しました。今日は、お話しした内容を3点ご紹介します。

 

◯「生きる武器」の話

冒頭のウェブサイトにAI甲子園のねらい、理念が書いてあります。以下に抜粋します。

 

山形県の高校生たちに生きる武器となるAIを学ぶ場を提供したいと思い、2020年に「やまがたAI部」を立上げました。高校生たちに先端技術のAIを通して、モノづくりやスポーツのような職人的世界に触れ、実践的な体験と学びを得る機会をつくることができればと思っています。

 

ここで、生きる武器という言葉が出てきます。私はすぐに「僕は君たちに武器を配りたい」(瀧本哲史著)という本を思い出しました。

学生向けの内容ですが、キャリア(職業人生)の大切さを具体的に示しており、今でも世代を問わず読む価値がある本です。この本では「武器」の考え方を具体的に書いてあります。少し強引に要約してみます。現在は、AIが発達し、「知識を持っていること」がコモディティ化(=当たり前)しています。単に資格を持っているだけではダメ、知識を活かしスペシャリティ(=他の人ではできない、主体的に稼げる力を持つこと、これが「武器」になると書かれています。

それこそIT系の資格はいくつもあります。資格を持つだけではなく、IT以外の知識や経験も組み合わせ、自らが所属する組織に加え、社会に貢献できるか考え抜くことが大切だと思います。

 

◯デジタル人材の話

スペシャリティといっても、さまざまな分野がありますが、今の日本の状況を見ると、ご紹介したサイトでも挙げられている「デジタル人材」(データ分析やAIといった情報技術を用い、課題を数字的・数理的アプローチで解決できる人材)を目指すことには大きな意義があります。しかし、一つだけ強調すると、情報技術、数学、統計に詳しくなるといったテクニカルな勉強だけでは不十分です。①社会的な課題を観察して特定する、②課題をどのように解決すべきか仮説を考え、その仮説を実行する、③実行した結果を検証し、さらなる対策を考えるといったサイクルを回すことが大切です。特に私は①が一番難しいと思うのです。机にかじりついて、勉強するだけではよい仮説は出てきません。さまざまな人と出会って、しっかり話を聞く必要があります。コミュニケーション力、知性、教養も問われます。瀧本氏も書いているようにリベラルアーツに親しむことも大切です。

 

◯「仕事と生活の一体化」

真のデジタル人材になるためのヒントとして「仕事と生活の一体化」という概念を共有したいと思います。当然、土日も働けというバブル時代の発想とは違います。地域や社外のさまざまな人と繋がり続けるためには、何らかのスペシャリティが大事です。スポーツや芸術関係のスペシャリティを有することは素晴らしいのですが、デジタル人材のような専門性を身につけて、仕事以外に社外の同じ目的をもつ仲間と繋がり、ボランティアやNPOの活動などを通じて地域に貢献することも大きな意味を持つはずです。衛生要因に強く拘らず、動機づけ要因を具体化した上で、モチベーションを持続していくことが望ましいです。

若い時から自分が目指すキャリアを明確にし、どのように能力を高めていくか考え続けることも、大きな「生きる武器」になると確信しているのです。

 

最後に写真の紹介です。

お隣さんのムクゲのこぼれ種が成長して、今年立派な花が咲きました。全く面倒も見ていませんでしたし、周囲には雑草がはびこっています。それでも育つ植物の生命力の強さを実感します。