文学

  •  Ⅲ エフェクト
    まどろむ海月 もうずいぶん昔のことですが 雲になって しばらく漂っていたころ  つめたい風にさらされて あてどなくさまよう 若い女性を見ました。 騙されて身も心も傷ついた恋の鋭い痛みに われを失っているのでした。 深い悲 […]
  • 「ケム―ル人」
                              飯島 章嘉 ケム―ル人・・・空想上の宇宙人。テレビシリーズ「ウルトラQ」に登場してからたびたび「ウルトラ・シリーズ」に出没している。細身の身体は縮小したり、また巨大にな […]
  • 童話・バラの泉の女神さま
               和田 能卓 むかしむかしのそのむかし、バラの泉の女神さまに守られた、小さな国がありました。 女神さまがいらっしゃるバラの泉は都の真ん中。旅人も足を止めて、疲れた体を癒(いや)したものでした。 泉には […]
  • 『天女』第九回
    南清璽    看護婦は、丁度、張り紙を貼ろうとしていた。しばらく休診するという内容だった。  「おはようございます。」  私を認めたその看護婦は、訝しげに、全くの儀礼に過ぎないとの程で挨拶をした。  「おはようございます […]
  • 『広末涼子』
    ゴーレム佐藤 うつつの夜が続く。眠い…眠いんだけどちゃんと眠れない。眠ったと思ったら目がさめて10分しかたってない。でも眠いから動けない。目を瞑ると目が冴える気がしてしまう。朦朧としながら動けないでいる。夢か現か、ってか […]
  • 洋梨の上に喜んで
    北條立記   大きな洋梨の上で、色々な果物がなる木を育てる女性。 その繊細な指で果物の手入れを行い、この世にないオリジナルな果物=ラ・パトゥーセウィシトスを育て作ろうとしている。 その果物は、食べるとお腹の中からほんわか […]
  • フェニックス六首
    田中義之   ふらふらと心と体揺れながら新しい事探してはどう 偉くなく少し考え息をするそれでも僕は生きながらえる 人間と猫族の差は心意気あってもなくても微笑んでいく 月明かり体に浴びて散歩する月光はやはり詩歌の元素 首振 […]
  • 三つのソネット
    飯島章嘉  Ⅰ.  詩人の憂鬱 我々は我々のもっとも好む方法で詩をつくるが 死はつくり出せない 我々は泡を吹く蟹のように 横ばいになりかなしむ 詩人の憂鬱について 我々は充分に討議しあった しかし死人の快楽については 沈 […]
  • 夢日記『風景』
    ゴーレム佐藤  気がついたら煙草がフィルタのところまで灰になっていた。 あわてて灰皿に押し付けた時、いきなり風景が見えた。 蒼い海。蒼い空、風までもが蒼い。  などということは微塵も無く、眼前には渋い顔をした女が一人。ナ […]
  • 連載小説『天女』第八回
    南清璽  診療所の勝手口。やはり、産婦人科ならば、玄関よりお邪魔するのは、控えるべきなのだろう。  「すみません。急患です!」  声をかけてみた。ドアの向こうの物音で少々気が止んだ。何分、数度は、試さなければならなと踏ん […]
  • 小説風エッセイ『心象の中の少女』
    北條立記  自分には、心象の中の傷付いた少女というのがいる。  ヨーロッパの心中映画では、最後はピストル自殺だ。ベッドサイドで恋人を撃ち、男性は彼女をやさしく寝かせ付け、その横に自分が横たわり、こめかみを撃つ。  私の考 […]
  • 連載小説『天女』第七回
    南清璽  「待って下さる?」  その声には幾分か重みがあった。でも、これは聞こえがいい様に言ったまでで、もう年増にかかろうとしている年頃だったから、生娘の様な声は持っていなかったのだ。だが、その声の深みには、何某かの知性 […]
  • 夢日記『ぐるぐる』
    ゴーレム佐藤  壁がね動いてるんです。ウルトラQのオープニングが極彩色になった感じで。逆に動いてないものがないんです。ワタシ以外の全てが渦を巻いて動いてるんです。ワタシは動けないんです。次第にクダから入ってくる酸素の分子 […]
  • 詩とイラスト「その都市」
    飯島章嘉 ⅰ その都市は極めて奇妙な特徴を持っている すべての建築物は窓を持たず、扉すらない 従ってその都市を俯瞰すると 一見広大な墓地を見るようである しかしどの建築物も天を衝く高層ビルだから 道路から見上げるビル群は […]
  • 小説『回帰 或いは、テレ・オフ』
    田高孝  2017年6月17日、母死去の報が、妹より、あった。深夜だった。私は、かねてからの、計画を実行することにした。  それは、電話回線外し。うちは、電話は、3台ある。携帯はない。そして、インターネット回線で、全部、 […]
  • 短編小説『泡沫(うたかた)の日々』コールドウォーター・ルール2
    求道鞠  わかる? 彼女は死なないのよ。夫の中で永久に。だって私よりひとまわりも若いんですもの。  君は微笑んでいる。そのアルカイックにシールされた微笑みにはおそらく、熟年の怒りが含まれているのだろう。几帳面に膝に揃えら […]
  • 怪奇心理小説『西ヶ原クロス・ロード』
    田高孝  お前が、自分で投げたものを捕らえている間は、すべては、手慣れた技量に尽き、うるところは、乏しい!   お前が、思いもかけず、永遠の競技相手、運命の女神が、かつてお前に、お前めがけて、まさに、熟練の弾み […]
  • 詩と写真「星空の出来事」Ⅰ~Ⅵ
    まどろむ海月(西武晶)  Ⅰ 夜の頁 星空から あなたは振り返る  貴女はふりかえる  ともしびに重なる微笑み  細い指先 星座へと続く階梯は 途絶えたまま この小雨のように 降りしきるものは 何なのか  白い […]
  • 連載小説『天女』第六回
    南清璽 「今回の仕儀については、さぞかし蔑んでいるのだろうが。」  そんな私の物言いに対して、当のKは、こう述べた。 「完全に否定はしないが、お前が悪事をなさなかったんだから、良かったと思っているよ。」 「それは、友情の […]
  • 夢日記『瞼の絵』
    ゴーレム佐藤  夕べは寝つきが悪く、マイスリーのお世話になった。  それにしてもなかなか寝付けない。なんか気になる、というかなんかいる気がする。いや、息子は隣で寝てるんだけどそれとは別に「何か」いる。  ようやくウトウト […]
  • 書かれた―家族
    飯島章嘉 ⅰ 死を教える祖母 墓地に立つ祖父 逃げる父 母は捨てた 兄は堕ちた 姉は隠した 叔母の匂いと色 子供は愛されている? ⅱ 高い水草の生える湿地帯で生まれた男や女は 高い水草の生える湿地帯で外を向いて車座になっ […]
  • 詩と写真『ユーモアの森から』
    まどろむ海月  1 夜と私 夜がやって来た 挨拶がわりに手元にあったまたたびをさしだすとなんと 長い舌を出して べろっとなめ取った 裏返しになってよだれを流しでろでろになったところを見るとどうやら 夜は 猫科らしいのが知 […]
  • 短編小説『コールドウォーター・ルール』
    求道鞠  泳ぎながら、それが背後から猛スピードで追いかけてくるのがわかった。  わたしはできるだけ速く水を掻いて必死に逃れようとしたけど、やはり追いつかれてしまった。目の前がどんどんくもりだす。それは背後から、バタフライ […]
  • 短歌集『奇跡~懐かしい日々』
    田中義之   高校生若気の至り言い訳にしていい時といけない時代   肩車担ぐつもりが耐えられず思わず落とす情けなき我   水俣の公害問題友と知り図書館で読む苦海浄土   自らを大人とみている高校生所詮は園児が背伸びしただ […]
  • 連載小説『天女』第五回
    南清璽  あの日のこと。令嬢の尊父からあの出奔の計画を糺されたときのことを思い出していた。  伯爵は既に応接間のソファーに座していた。決して、威厳を示さず、むしろ、しとやかといえた。そして、いつもの深みのある落ち着いた物 […]
  • 書かれた―祖父  「家族譜」より
    飯島章嘉 繰り返し  繰り返される夢 祖父という見た事の無いもの 二度と見る事の無いもの 無いものへの信仰 不知への限りない接近と離脱 長押に上がった肖像の夢 不知への限りない接近と離脱 無いものへの信仰 二度と見る事の […]
  • 夢日記『銀髪』
    ゴーレム佐藤  とにもかくにも部屋中動物で充満していた。  匂いとかはさほど気にならなかったが、とにかく、ちょろちょろするこの、リスがうるさい。犬と違ってそこいらじゅうに糞をするのを、僕は一日中集めてまわる。気にするなと […]
  • 短歌集『収容所群島』
    田中義之  令和と打ち囹圄(れいぎょ)と変換されていくここはまさしく収容所群島  燕子花典雅な構図を繰り返す光琳描く燕子花屏風   差別する言葉をうまく案出し心は隠す地獄の果てに  セロ弾きの独奏これは孤独なり観客1人共 […]
  • 短編小説『悦っちゃん』
    矢野マミ 「そういえばさ、悦ちゃん、亡くなったんだって……」  久しぶりに会った同期からの報告に驚きながらも、いつかその日が来るのを予感していた。 『悦ちゃん』は、3人目の育休明けに出会った上司だった。社内の有名人だった […]
  • 初投稿エッセイ*名前がない白猫
    いとうあきこ  名前がない猫がうちにいる。来た時、真っ白な姿から「ゆき」「しろ」などの名前を考えたが、どれもしっくりとこなかった。  考え疲れ、「人間の中に猫一匹だから『ねこ』でいいか」と今も正式な名前がない。家族はにゃ […]
  • 連載小説『天女』第四回
    南清璽  私が、こんな風に御令嬢から頼られたのも、そう、その言葉を借りれば「人がよさそうな」という処か。もちろん、当初は、いわば煮え切らない、あいまいな態度を示してしまっていた。何分、伯爵家の令嬢故、向後も続くであろう、 […]
  • 夢日記『目覚めよと呼ぶ声あり』
    ゴーレム佐藤  たたみかける仕事の雑多さに拘泥しながら、寄せては返す波のように繰り返し運行する星々の海に溺れかけていた。只々打ち続けるキーボードがかちゃかちゃと何かを訴えかけているような気がしたけれど、息をすることも忘れ […]
  • 書かれた―祖母  「家族譜」より
    飯島章嘉 まず死を見に行く ここから始る コントロール出来る死をいただく 痴呆症の祖母から 空き家の前の側溝でつまずく 湿地帯とくねる道に隠される祖母 空き家の前の側溝でつまずく 痴呆症の祖母から ここから始る コントロ […]
  • 小説的断章『イヴの煙』
    求道鞠 ◇写真©松岡祐貴◇  あこがれはやはりまぼろしだった。あこがれの甘い残り香も消えた。  やおら烟草に手を伸ばし、火をつける。肺を軽いメンソールの煙で満たすと、胸にいつもよどんでいる、もったりした霧状の虚しさが、ふ […]
  • 書かれた―叔母  「家族譜」より
    飯島章嘉   耳の後ろが赤く膨れ上がり 朝焼けのように 蕁麻疹が広がる 意味の分からない 恐怖をかんじる 湿地帯の高い草の中で 白い水鳥の環視の中で 叔母は叫び声をあげる 白い水鳥の環視の中で 湿地帯の高い草の中で 恐怖 […]
  • 連載小説『天女』第三回
    南清璽  確かに、ある種、無償の行いだった。だが、ここに高貴な動機があったのだろうか。敢えて、無償としたのは、昇華させる意味を持たすためだった。そう、あくまで無償の行いだったと。一方、臆面もなく、この昇華という言葉を使う […]
  • 夢日記『闇の左手』
    ゴーレム佐藤  寝ていたら背後から僕の手を取るものがいる。手を取られていることに気を取られていたら僕の足を掴むものがいる。  暖かい手はすがるように僕を掴んで離さないが、その力の握り方には微かな憎悪をも感じた。  聞こえ […]
  • 詩二篇『家族譜』より「書かれた―姉」「書かれた―兄」
    飯島章嘉 書かれた―姉  「家族譜」より 墓地へ駆けてゆく 姉を二階の窓から見た 学校の制服を隠したのを 姉のほこり臭い制服 血の付いた便器にしゃがんだ 汗のにじむ掌で鈍く赤い 姉の隠し持つ勾玉 汗のにじむ掌で鈍く赤い […]
  • 詩画集『春の頂から』ー君のいる風景 Ⅳ
    まどろむ海月(西武 晶) 深まる夕闇の中で 水底まで透きとおった 滑らかな黒の湖水に 斜めにさし通した櫂から 膨らむ波紋 滴る雫が 清澄の音階に流れつづけ・・ 静かに進む二人きりの小舟 君の影が波璃に映った 伝説の少女の […]
  • 夢日記『番号』
    ゴーレム佐藤  玄関のドアにぶらさがる番号札、いつから下がっているんだろう。  部屋番号とは全く別の番号が手書きで書き記してある。となりの部屋をみるとやっぱり手書きの番号札がぶら下がっている。その隣も向かいも13桁の数字 […]
  • 短編小説『赤子の皺』
    北條立記  その赤子の手の甲には、深い皺があった。  気になり上着を脱がせてみると、背中の右上にも皺があった。  左の二の腕にも、臍の上辺りにも、右のふくらはぎにも皺が刻まれていた。  目の下には大きな隈がある。  目玉 […]
  • 連載小説『天女』第二回
    南清璽  この日、令室は、ハ短調の楽曲を所望された。当初、ベートーヴェンのピアノソナタをと考えたが、独逸国の留学時に楽譜として手に取ったシューベルトのピアノソナタが忘れられず、知己を通じ、その楽譜を借りた。今回のサロンで […]
  • 連載小説『天女』
    南清璽  迂闊だった。その場を和まそうと微笑んだのに過ぎないのに、当の令室は、それを嘲りと捉え、例の如く、私に、折檻を施そうとするのだった。  大凡、彼女の面前で、微笑みを浮かべること自体禁忌だった。それは、先にも述べた […]
  • 詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅲ
    まどろむ海月 見上げた月は 皓々として 雪景色の深い谷の 底にまで 光を落としていた 白い中空の湯のなかで 魚のように戯れたね 紺青の空に 雲 高原の蒼空を 何日も さまよった 大空の神聖な変貌 永遠の高みへの 憧れと祈 […]
  • 詩二篇『家族譜』より「書かれた母」「書かれた父」
    飯島章嘉 書かれた―母  「家族譜」より 母は 捨てる 真昼に閉じた雨空へ捨てる 滑空する白色の鳥が堕ちる所 そこに堕ちる母のものを捨てる 湿地帯に隠された 母の書いたもの そこに堕ちる母のものを捨てる 滑空する白色の鳥 […]
  • 夢日記『それは極上の天気の日だった』
    ゴーレム佐藤  読み合わせは合同で行うことになった。場所はとある電鉄の終着駅から降りて徒歩で行ける小島だ。潮が引いてる間は砂州によって島まで陸続きになる。僕らは駅で待ち合わせた。初の顔合わせになる女優と同じ列車に乗った僕 […]
  • 夢日記『バカンス』
    ゴーレム佐藤  キューバはハバナ。  気持ちのいい風が吹き抜けるアパートの一室で僕は、ゲバラ、カストロそして元恋人の彼氏と麻雀卓を囲む。もうもうと立ち昇るコヒバの煙で手元も見えない中、ラムをあおりながらだらけた勝負が続く […]
  • ある小説に関する思い出
    田中義之  『孤高の豚』って云う短編小説を書いたことがある。主語は、三人称複数。ある独裁国家の元首の存亡(実は安泰) を、民衆側から描いた物で、多分にガルシア・マルケスの『族長の秋』の影響がある。  「『孤高の […]
  • 詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅱ
    まどろむ海月 午前の森の中に 七つの池を巡った エメラルド色を湛えた 太古の静寂は やさしい風をふくむたび 燦めく微笑みを見せた 僕たちの前の 永遠の現場 蒼空の中には 白い幻のように わきおこる思いと とめどないあこが […]
  • 怪奇心理小説『愛紅始め』『駒込白馬堂』
    田高孝 『愛紅始め』  その子は、同級で、月一の定例のプラネタリュームを見に行く会のメンバーの一人だった。その会は、私が、提案し、中学時代に行なった。仲良し4人組である。  いつも、駒込の上の方の改札で、待ち合わせ、日曜 […]
  • 夢日記『真っ白な闇』
    ゴーレム佐藤  目を覚ますと天使が僕の上に浮かんでいる。  背後の光輪はどこまでも眩しく天使は微動だにしない。動いてはいけないような気がして暫くはそのまま枕に頭を沈めていた。  だんだん意識がはっきりしてくるといろいろ考 […]
  • 短詩「花花は」
    田中義之 草草の名は知らぬらし花花は名は知らぬらし花の咲く咲く 草咲くや名は祝い花八草咲く 鬱という字面の中の暗闇にしばし躊躇いやはり飛び込む 俳諧の人に非らずと皆の言う 毛並み良き我が飼い猫の背を撫でて天使の髪は何色か […]
  • [特別寄稿]舞踏小説『鹿のヴァイオリン』
    大輪茂男      1  城壁の街ポロロの祭の晩のことである。   湖のある丘陵を渡る風の中でバターや果実を作り出す草原の住人や、遥かな雪山の峰の彼方に神々の水浴場があると信じている森の住人たちも、こ […]
  • 詩画集『春の頂 から』
    まどろむ海月 透明な道で すれちがった時 ささやいたのは 君だったのか… 「幸せの頂を見るのが 春の役目だ。」と   長い旅姿のままの 私の冬(かなしみ)よ 水面の きらめきが 遠くから 広がった 扇 […]
  • 詩「生き物ソネット」四篇
    飯島章嘉 第一篇 犬 転がる空き缶を追う犬 犬は追う生き物だ しかし犬は追わない 目前の暗闇を 餌の残りを掘った穴に隠す犬 犬は穴を掘る生き物だ しかし犬は掘らない 飼い主の墓穴を わたしはそれを不誠実だと考える 少なく […]
  • 短編小説『憐れに憐れな、そして憐れよ!!』
    北條立記 1 電車にて  杖つく背の低い老婦人、草色のワンピース姿のぱっちり目の妊婦、ヘルプマークをリュックサックからぶら下げた16歳くらいの女の子、松葉杖で疲れて苦しそうなサラリーマン。全部無視して50分間シルバーシー […]
  • ユーモア小説:シン・コンペイ島綺譚 (2)
    田中義之 ●シン・コンペイ島綺譚 特別篇 ★序章   コンペイ王達とは違う時系列に、つまり、数十年前。テリアのお交りの桃子は、ひなちゃんと同じく、お散歩をしている。桃子もまた一点を見つめているのだった。ひなちゃんが、見つ […]
  • 小説的断章『絶歌』
    求道鞠(グドウ・マリ)   マリの舌が、火がついたようにひらひら燃えている。 舌禍だ。 ゆらゆらと、ただれおちる寸前の舌をあわや冷えたスプーンでささげもち、何があったのかと詰問すると、さすがはマリの舌、饒舌な舌たらずで甘 […]
  • 小説『思い出』
    矢野マミ  若い頃のほんの一時期、都内で教員をしていたことがある。都内と言ってもまだまだ田畑の残る地方都市の趣のある街だった。 男子が9割を占める工業高校で、私は国語の教員として勤めていた。  いつものように仕事を終えて […]
  • 詩)旅の途中で
    飯島章嘉 いつの間にか 来てしまったここへ聞こえる誰かの呼ぶ声声、音の震えが日差しを揺らしている風?風ではない声 声が流れてせせらぎに浮かぶ草の葉をなぶる水か 水ではない。それは水の声私の声 もう聞こえない何もしかし日差 […]
  • 詩画集『夏の楽譜』
    まどろむ海月・詩、田中義之・イラスト Ⅰ 誰が投げたか 空の底に小石が一つ 果てのない青い花の野に 生まれたばかり白の風紋は旅立つ それは水溜りに揺れる夏の楽譜  硝子のまぶたに透ける午後 昼の月は淡く微笑む 飛ばした紙 […]
  • 歌集『恋歌へ』
    田中義之 アラビアの古なるや美しき笑みを湛えて訪れる君 微かなる気品漂う首飾り険しき峰の谺の様に ささやかな静けさの後水兵は咳一つするその闇の中 ターバンを地上に置きて綴る文天使現れ説く桃源郷 夏過ぎてニンフは祈る額付き […]
  • 詩題)愛と希望と生きること
    北條立記 自分の中を通過している、通過し続けているある印象がある。自分の潜在意識に入ってきたものであり、今の自分の安定をもたらしたものだ。なぜそれが安定をもたらすのか、つかもうとしてもつかめないのだが、ある時からそれは安 […]
  • 連載ユーモア小説『シン・コンペイ島綺譚』
    田中義之 おはよーにゃ! 心のワクチンとして、お送りします。 ●新編・コンペイ:予告篇  貓和・貓成・貓和と続く戦後の歴史の中で、今ほど危機的な状況は無いのであった。  猫の国の王、クチャくんは、心をいためていた。 「コ […]