とある会社員から見た「心理」の話(3)

浅野卓

 (東海道新幹線から見た浜名湖の夕陽)

 先月、先々月と大学で1コマずつ実務家として講義を担当しました。マーケティング論、福祉政策論と違ったテーマでしたが、いずれも最後に大学生へのエールとして、私が考える「キャリア」論についてお話しすることにしています。

 私が大切にしている考え方は、「仕事と生活の一体化」です。10年以上前に、内部監査の専門誌で、スウェーデンの家具会社の役員のエッセーを読んで、強く心に残った考え方です。これは少し古いですが「24時間戦えますか?」といった名コピーに象徴されるような、土日を通して働き続けるということではありません。最近では、Work in LifeやWork as Lifeと紹介されている概念でもあります。

 私の仕事は、駅ビルの運営です。駅をご利用されるお客様に加えて、買い物をするために駅周辺にお越しいただける、そういった存在の駅ビルにしていきたいと思っています。そのためには、どういったテナントを誘致すればいいか、どのようなイベントを計画したらいいか、仲間と検討し、実現させていく必要があります。当然、すべてのアイデアが実現するわけではなく、だいたい1割、2割が具体化すればいいぐらいでしょうか。また、具体化した取り組みでも、お客様から好反応を得られる割合は低いのです。なかなか厳しい世界です。

 そう考えると、まずさまざまな「アイデア」「引き出し」を持つことが大事です。しかし、机にかじりついて、本やネットを見るだけで、よいアイデアが思い浮かぶでしょうか??想像の通り、難しいですよね。

 私の場合は、さまざまな商業施設に出向いたり、地元の人々と議論したりという体験を大切にしています。そうなると、実は土日の過ごし方も変わります。何気なく買い物に行った商業施設のイベントやマルシェが印象に残る、接客のよいお店を見つけたとなると、仕事に生かせるいいアイデアが思い浮かぶことがあります。そういう瞬間が来ると本当に嬉しく思います。ちょっと大げさに書くと、会社に行きたくなるわけですね。それが、「仕事と生活の一体化」の本質だと思います。

 そういったサイクルが回りだすと仕事が楽しくなり、やりがいを感じるようになります。しかし、そういったサイクルを回し始めることは意外と難しいのです。どうすればいいのでしょう?

 絶対的な正解はありませんが、経営者の立場で述べると、会社の仲間それぞれが自分の仕事に誇りを持てる環境を創る必要があります。ここで、心理の話にもなりますが、仕事の誇りとはなんでしょう?給与でしょうか?地位でしょうか?これらは、ハーズバーグの二要因理論における衛生要因の代表例ですが、それだけでは誇りの持続にはつながらないのです。衛生要因の充足に加えて、例えば第1回でご紹介したようなイベントを成功させること、地域のお客様に喜んでいただき、人とのつながりが強まることといった動機付け要因を充足させることが大切です。そのために、心理的安全性の確保がポイントになるわけです。

 経営者にとってリベラルアーツを学ぶことが大切とされています。なかでも、「心理」を知ること、学びつづけることは重要だと日々思います。