生き物ソネット三篇 

飯島章嘉

   


荷を負う人々の足
裸足の足裏に小石のむごく食い込む
しかし頓着はない
人々が見上げているのは一羽の鷹

苦役に口を開き
前後の者を探す目は黄色い
荷の重さは一刻一刻と肩を歪め
頭上に日はないが鷹はいる

鷹よ お前は眼下の営みを解さない しかし
空のその位置で葉陰の禽獣を見逃さず
空のその位置で枯れてゆく泉を見逃さない

塔のある世界から孤立し
鷹よ お前が欲しいものは気流だ
肩怒らせる積乱雲がお前を見据える

 

 
 

 蝶


わたしが蝶であるなら
世界が剥き出す筋肉の紫の静脈の盛り上がりを
ペロリと舐める
その時の世界の激しい快感を想像出来る

わたしが蝶であるなら
世界が秘めている恥部 その柔らかく熱い粘膜の奥を 
ススッとこする
その時の世界の身悶えを わたしは想像出来る

蝶よ 毛だらけのストローの口持つものよ
感情のひと羽ばたきで 世界の頭部を砕け
べとべとした知性に脳は煮えたぎっているだろう 

わたしが蝶であり 世界がわたしであるなら
わたしは快楽を与え それを受け入れるみだらな虚け
わたしは世界を死に至らしめ わたしの死体もそこに転がる 


 

かわうそ


かわうそは水をくぐる
水は瑠璃色に光り、水音は鈴だ
そう言うかわうそは嘘つきなのだ
かわうその棲家は荒れて、臭気すらただよう

かわうそは魚を獲る
餌はあふれるばかり手当たり次第だ
嘘つきかわうそは得意げだが
魚はほとんどいないし、たまに捕れるものも嫌な味だ

かわうそは虫も鳥もいないことが気にかかる
空の色がみょうに赤いのも気にかかる
嘘をつく相手が減ったことが一番気にかかる

かわうそは澱みの汚れをくぐった
かわうそは形の変わった魚を獲った
いつもと変わらないと、自分に嘘をついた

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