求道鞠

文学

短編小説『泡沫(うたかた)の日々』コールドウォーター・ルール2

求道鞠 わかる? 彼女は死なないのよ。夫の中で永久に。だって私よりひとまわりも若いんですもの。 君は微笑んでいる。そのアルカイックにシールされた微笑みにはおそらく、熟年の怒りが含まれているのだろう。几帳面に膝に揃えられた指先が、わずかな震え...
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短編小説『コールドウォーター・ルール』

求道鞠 ©松岡祐貴 泳ぎながら、それが背後から猛スピードで追いかけてくるのがわかった。 わたしはできるだけ速く水を掻いて必死に逃れようとしたけど、やはり追いつかれてしまった。目の前がどんどんくもりだす。それは背後から、バタフライでやってきた...
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小説的断章『イヴの煙』

求道鞠◇写真©松岡祐貴◇ あこがれはやはりまぼろしだった。あこがれの甘い残り香も消えた。 やおら烟草に手を伸ばし、火をつける。肺を軽いメンソールの煙で満たすと、胸にいつもよどんでいる、もったりした霧状の虚しさが、ふうわりなだめられる気がした...
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小説的断章『絶歌』

写真©松岡祐貴求道鞠(グドウ・マリ)  マリの舌が、火がついたようにひらひら燃えている。舌禍だ。ゆらゆらと、ただれおちる寸前の舌をあわや冷えたスプーンでささげもち、何があったのかと詰問すると、さすがはマリの舌、饒舌な舌たらずで甘えたシラを切...