文学

大輪茂男

[特別寄稿]舞踏小説『鹿のヴァイオリン』

大輪茂男     1 城壁の街ポロロの祭の晩のことである。湖のある丘陵を渡る風の中でバターや果実を作り出す草原の住人や、遥かな雪山の峰の彼方に神々の水浴場があると信じている森の住人たちも、この日ばかりはポロロの街を目指してやってくるのだった...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『春の頂 から』

まどろむ海月透明な道で すれちがった時ささやいたのは 君だったのか…「幸せの頂を見るのが 春の役目だ。」と長い旅姿のままの 私の冬(かなしみ)よ水面の きらめきが 遠くから 広がった扇のように くりかえし くりかえし君の 遠い視線に ささや...
文学

詩「生き物ソネット」四篇

飯島章嘉第一篇 犬転がる空き缶を追う犬犬は追う生き物だしかし犬は追わない目前の暗闇を餌の残りを掘った穴に隠す犬犬は穴を掘る生き物だしかし犬は掘らない飼い主の墓穴をわたしはそれを不誠実だと考える少なくともわたしだったら目前に在るものはすべて追...
北條立記

短編小説『憐れに憐れな、そして憐れよ!!』

北條立記1 電車にて 杖つく背の低い老婦人、草色のワンピース姿のぱっちり目の妊婦、ヘルプマークをリュックサックからぶら下げた16歳くらいの女の子、松葉杖で疲れて苦しそうなサラリーマン。全部無視して50分間シルバーシート、そのドア側の所に座り...
文学

ユーモア小説:シン・コンペイ島綺譚 (2)

田中義之●シン・コンペイ島綺譚 特別篇★序章  コンペイ王達とは違う時系列に、つまり、数十年前。テリアのお交りの桃子は、ひなちゃんと同じく、お散歩をしている。桃子もまた一点を見つめているのだった。ひなちゃんが、見つめていたのは、赤ら顔の中年...
文学

小説的断章『絶歌』

写真©松岡祐貴求道鞠(グドウ・マリ)  マリの舌が、火がついたようにひらひら燃えている。舌禍だ。ゆらゆらと、ただれおちる寸前の舌をあわや冷えたスプーンでささげもち、何があったのかと詰問すると、さすがはマリの舌、饒舌な舌たらずで甘えたシラを切...
文学

小説『思い出』

矢野マミ 若い頃のほんの一時期、都内で教員をしていたことがある。都内と言ってもまだまだ田畑の残る地方都市の趣のある街だった。 男子が9割を占める工業高校で、私は国語の教員として勤めていた。 いつものように仕事を終えて帰宅すると、事件の第一報...
文学

詩)旅の途中で

飯島章嘉いつの間にか 来てしまったここへ聞こえる誰かの呼ぶ声声、音の震えが日差しを揺らしている風?風ではない声 声が流れてせせらぎに浮かぶ草の葉をなぶる水か 水ではない。それは水の声私の声もう聞こえない何もしかし日差しが揺れている 風?せせ...
まどろむ海月(西武 晶)

詩画集『夏の楽譜』

まどろむ海月・詩、田中義之・イラストⅠ誰が投げたか 空の底に小石が一つ果てのない青い花の野に生まれたばかり白の風紋は旅立つそれは水溜りに揺れる夏の楽譜 硝子のまぶたに透ける午後昼の月は淡く微笑む飛ばした紙飛行機に 少年自身が乗っていて誰も傷...
文学

歌集『恋歌へ』

田中義之アラビアの古なるや美しき笑みを湛えて訪れる君微かなる気品漂う首飾り険しき峰の谺の様にささやかな静けさの後水兵は咳一つするその闇の中ターバンを地上に置きて綴る文天使現れ説く桃源郷夏過ぎてニンフは祈る額付きてネヴァーランドに望みを託し春...
北條立記

詩題)愛と希望と生きること

チェロの肖像、希望北條立記自分の中を通過している、通過し続けているある印象がある。自分の潜在意識に入ってきたものであり、今の自分の安定をもたらしたものだ。なぜそれが安定をもたらすのか、つかもうとしてもつかめないのだが、ある時からそれは安定を...
文学

連載ユーモア小説『シン・コンペイ島綺譚』

田中義之おはよーにゃ! 心のワクチンとして、お送りします。●新編・コンペイ島綺譚 予告篇 貓和・貓成・貓和と続く戦後の歴史の中で、今ほど危機的な状況は無いのであった。 猫の国の王、クチャくんは、心をいためていた。「コンペイさんは、無事だろうかにゃ?」 今回は、猫の国がこの世を救う番だ! と、クチャ王は、つぶやいた。