三つのソネット

飯島章嘉

 

 Ⅰ.  詩人の憂鬱

我々は我々のもっとも好む方法で詩をつくるが

死はつくり出せない

我々は泡を吹く蟹のように

横ばいになりかなしむ

 

詩人の憂鬱について

我々は充分に討議しあった

しかし死人の快楽については

沈黙するしかなかった

 

思えば千の毒の致死量も知らず

雨は降り続くだけだ

氾濫の予感に青褪めるだけだ

 

せりあがる嘔吐感に耐えてでも

凝視しなければならない物は何か

殺されてでも手に入れるべきものを本当に希求しているか

 

 Ⅱ. 劇

悲劇、というものがあるとすれば

コップの乾いたミルクや

公園で逆立ちをする男や

紙袋の中身に怯える女が考えられる

 

喜劇、というものがあるとすれば

冬の朝の凍ったパンとズボンや

嫌われ者の食べ残しや

形のいびつな壺などが考えられる

 

密室で悲劇や喜劇を研究する者

汝は呪われよ

鉛筆の尻をかじる者の名において

 

密室で悲劇や喜劇を研究する者

汝は祝福されよ

永久に人生を生きない者の名において

 


 Ⅲ.  被告

被告の名が告げられた

その名が法廷に響き渡った時

傍聴席はエクスタシーに飲み込まれ

男も女も腰をくねらせた

 

皮膚が硬く臭う者それは裁判官だ

検事も弁護士もシャツをはみ出させ

法廷は不潔と不信に満ちている

被告が現れるまで

 

被告の足取りは見られることを知っている

被告の顔は誇らしさに紅潮し

自信と優美が流れ出す

 

裁判官の法衣の下から

恥じを知る鼠どもが走り去った

裁かれる者はなまめかしいのだ

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