『広末涼子』

ゴーレム佐藤

うつつの夜が続く。眠い…眠いんだけどちゃんと眠れない。眠ったと思ったら目がさめて10分しかたってない。でも眠いから動けない。目を瞑ると目が冴える気がしてしまう。朦朧としながら動けないでいる。夢か現か、ってか夢だよな。長い夜だ。

 なぜか広末涼子がいる。なぜ?好みだったかなあ。かもしれないなあ。よくわからないなあ。夢で出てくるならそうかもなあ。などと思ってると小用で目が冴える。トイレへ駆け込む。布団に入る。あ、っと気づいて水を飲みに戻る。するとそこになぜか広末涼子がいる。ああ、なんか末期かなあ。なんでいるんだろうなあ。水を飲んでるのがほんとなのかそこに広末涼子がいるのがホント…なわけないから夢なのか。つまり水を飲みに戻ったとこから夢なのかなあ。でもしっかり水道ひねって飲んでる自分がここにいる。と気づくとそこには自分ひとり。よくわからなくなって布団に戻る。戻った気がする。へええ、広末涼子って男だったんだ…って何を根拠に…そこにいるから…ってほんとか?誰?誰なのかしら。触れてみると確かな感触。ああ、いたんだ。やっぱりね。いるならいるでいいや。眠いから寝てみるよと言った気がして布団被って目を瞑るけれど布団の上から柔らかなでも確かな重量がゆっくりのしかかる。ああ、やっぱり誰かいるんだね。まあ、いてもいなくてもそれはそれでたいした違いはないじゃないか…眠りに落ちることさえできれば満足なんだから…とどまることを知らない意識の奔流が布団をはねのけて時計を確認すると午前3時を大幅にまわっているし誰もいないし、パソコンの電源を入れてみて横になりながらマウスの操作は難しいな、とちょっと感じながらDVDをプレイする。ライフ・イズ・ビューチフル。じゃないだろうっ!といきりたってほかのDVDを探しに猛然と立ち上がる。フルメタル・ジャケットじゃもう絶対眠れないから何かおバカな映画を手に取ったけどなんだかわからず布団に戻るつもりがなぜか広末涼子と踊っている。という夢だとわかってももう何がなんだかわからず踊っている僕はよろけて襖に倒れかかったとき、あっ、これを壊しちゃいけないと異様に冷静になった時やっと畳の目が眼前にあることに気づいたときは思いっきり頭を打っていた。脳震盪。ってほどじゃないだろう、こうして憶えているのだから、と余計なことを考え考え永い間そのまま動けずにいたような気がしたけれど布団に横になって時計をみたらさっき確認したときから3分もたってないじゃないか、ああ、この時間の流れは25年前に虫歯の激痛で一晩苦しんだ時の進み方に似てるな、と横切る思いとやけに明るい部屋の端っこにやっぱりいる広末涼子が、こうして緩慢な狂気へ追いやっているんじゃないかなあ、とまとめようとしている誰かがいることに気づいたり。気づいたりしてるのは私なのか僕なのか、ってどちらも一人称は変わらず。やけに真っ白な、って別にやけにというわけじゃなく真っ白な壁紙が、そう、NSPの歌を思い出させて歌ってみると、結構歌えるし、夜中に一人で歌うのもなかなかかじゃないか、やけに真っ白な雪がふわふわ、まっぱだかの木をこごえさせ、せみの子供は土の下、あったかいんだね、ぐっすり眠る。なんて歌だっけか思い出せないけど歌詞は思い出すからまた歌うんだけど、昨日までそうだったように、明日もこのままでいたかった、楽しかったわだなんて、それが最後の言葉かい。歌っているとやっぱりさっきとは違う隅っこに広末涼子がいるのだがこちらを向いてるわけでもなく背中を見せているというほど拒否でもなくよくわからないはっきりしない態度だな、とむかついてみたりしながらも歌はなんていう歌だったか思い出せないほうが重要で、でもやっぱり続く歌詞を続けるのだ。人の言葉は悪いいたずら、愛は心に書いた落書きさ、いつまでも心にへばりついて、僕の心を悲しくさせる。げえ。ココロに書いた落書き?歌ってて恥ずかしいぜ、など一人赤面しつつも次の歌詞が歌の題名だった。さようなら。Em、C、Amの三つのコードしかないすごく簡単なアルペジオなことも思い出す。思い出せればそれでいいのであって、布団に入っておバカなDVDをプレイする。プレイする。プレイする。三度続けるとなんでもそれらしい。繰り返しはそれが意図的じゃなきゃ必ず面白い。呑む酒もなければマイスリーもないわけで、布団を被るとまた襲ってくる重量が、ああ、これが広末涼子なのか、ととんでもなく確信に満ちた気分は、安心して眠れるトキを告げているような気がして安心した。そういえば復活トキ万歳。万歳かよ。と思うワタシは誰なのか、と、ここでブルトンかよ、と布団をはねのけナジャを探すが出てこない。同じシュールならヴィアンのほうがロマンティックだろ、とわずかに憤慨するけれども、それならランボーでもいいじゃんかと納得する。夢は色がないのだが、今は極彩色の天井があまりにも毒々しくて酔ってしまいそう、なのは二日酔いだからか…いや酒は飲んでいないだろう、いや呑んだか、しかたがないのでまた違う隅っこ、つまり隣にいる広末涼子に聞いてみた。きっと振り向いた彼女がおそらく切り出した話題は、食べ過ぎは体の毒。我の至らなさに急に悲しくなって一人でオイオイ泣いてしまいそうになるのをこらえつつ、こらえることはないだろう、ねえそうだろう、と聞くまでもなく頷く広末涼子は天使だ。そう思ったのは確かかもしれない。そろそろやめて、こんなことは、もう一度布団に入ったとき見た時計はすでに午前6時を回っていて、それでも11月半ばの空はまだ暗く、夜じゃないか、まだまだ。と恐ろしく安堵してみたりするうちに音が聞こえ始めてそれは終わりを告げているのかあきらめを告げているのか、畳の縁を踏んではいけないと刷り込まれたワタシはベッドから降りられず、やっぱりまたしても泣き始めるのだろうと1分後の自分を思うと憐れに思うわけなのだ。絶海の孤島に置き去りにされたワタシは生きるべく釣竿とテグスの代わりになるものを探すけれど、自らの髪をむしって結びつけるには進んだ老眼が邪魔をするし、畳の海には魚がいないのだった。稽古で使ったペンライトというには大きな懐中電灯というには小さな、ようは存在がワタシの稽古の為にしかない、単三電池2本で光り続ける光源機械を右手に持って左手には盾となるべく久々に戻った、キャッチ・ワールドと題された文庫本を持って、奈落の乾いた海原へ泳ぎだす。壁も畳も襖も一体となりつつあるような、つまり意識がやっと眠りへと旅立ち始めたと思うそのときに、逃れようとワタシは広末涼子のいるソコへ向かうのだった。
(夢日記)


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