浅野卓
私の父は、島根県邑智郡川本町の生まれです。人口が3,000人程度の小さな町ですが、2018年に三江線が廃止になる直前には、大勢人が来たようです。
父は、東京での生活が長くなり、祖父母も他界していますので、川本町にはもう何年も出向いていません。でも、時々島根県が懐かしくなります。
ということで、先週末に、久しぶりに島根県に行ってきました!写真を少々Facebookにアップしております。石見神楽の実演を間近で見られたのが市場認証に残りました。いい気分転換になりました。
さて、余談はさておき、今日は、センスメイキング議論について書きます。ミシガン大学の組織心理学者カール・ワイクによって生み出され、発展した比較的新しい考え方とされています。専門外になってしまいますが、心理学や哲学の領域と重なる抽象的な理論が背景にあるとのことです。
日本では早稲田大学の入山教授が、センスメイキングとは「腹落ち=納得」を大切にすることと述べておられます。これだけではわかりにくいと思います。入山教授が象徴的なエピソードを紹介していますので、以下に引用します。
ある時、ハンガリー軍の偵察部隊がアルプス山脈の雪山で、猛吹雪に見舞われ遭難した。彼らは吹雪の中でなす術なく、テントの中で死の恐怖におののいていた。その時偶然にも、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。彼らは地図を見て落ち着きを取り戻し、「これで帰れるはずだ」と下山を決意する。彼らはテントを飛び出し、猛吹雪の中、地図を手におおまかの方向を見極めながら進んだ。そしてついに、無事に雪山を下りることに成功したのだ。しかし、そこで戻ってきた隊員が握りしめていた地図を取り上げた上官は、驚いた。彼らの見ていた地図はアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったのである。
https://diamond.jp/articles/-/224729
興味深いエピソードだと思いませんか。企業がVUCA〔Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)を組み合わせた用語〕の時代を生き抜く際に、仲間全員が「腹落ち」することは大切な要素だと思うのです。
前回の原稿で、イベント(https://1484machinaka.jp/event/7779)を企画したとご紹介しました。なぜ、私が所属している会社がこれらのイベントを企画したか、もう少し背景を述べます。
駅ビルは、名前の通り、極めて利便性が高い場所にありますので、これまでは集客に困っていませんでした。しかし、コロナの影響を受け、鉄道利用客が一時期大きく減少しました。また、ECが普及し、テナントの得意先であったアパレルの売上も減少しています。夜の懇親会需要も元に戻らないでしょう。また、私の勤務先の豊橋や類似の地方都市の人口減少も心配です。
とはいっても、鉄道利用客はまだまだ多いですし、駅周辺の住民の皆様の需要もあります。地域の活力を維持するために、駅ビルの役割は大きいと自負しています。
そのために、駅ビル、そして当社はどのように変わっていくべきか、職場の仲間とも議論しました。まず、賃料計算やテナント様への伝達事項などはデジタル化して、仕事を効率化していく方向性を明確に決めました。デジタル化が進めば、在宅勤務など柔軟な働き方も実現できます。そして、生み出した時間を活用して、地域の皆さんと連携したイベントなどを開催しようと決めたのです。
この流れをもう少し言葉を変えてまとめてみましょう。コロナの流行、少子化、ライフスタイルの変化など、この3年ぐらい駅ビル事業に影響を与える事柄が多々ありました。今までと変わらないスタイルで経営を続けると、もしかしたら数年後に大赤字になっているかもしれない。少しでも経営を安定させるために、会社の仲間全員で危機感を共有したうえで、新しい工夫(少し大げさに言うと、イノベーション)を具体化していこうと意思を統一したわけです。その一つの表れが、先ほどのイベントだったのです。
恐らくコロナ前の当社であったら、初めてのイベントを計画したとしても、通常業務が忙しい、お客様が並ぶのが心配といったネガティブな意見により実現しなかった可能性が高かったと思います。しかし、会社の仲間全員が、コロナの影響を受けて経営が厳しいので、今までと違った観点で仕事に取り組む必要があるということを「腹落ち=納得」してくれたので、イベントを成功させることができたのです。
このような成功体験を積み重ねていくと、さらに地域と連携するためにいろいろな工夫が思い浮かんでくるでしょう。そして新しくチャレンジする仕事にも積極的に取り組み自分を成長させたいという思いも強くなるでしょう。このような好循環を回し、企業が発展するきっかけを創るために、このセンスメイキング理論は重要な一つの要素になると考えています。
コメント