マミのA4一枚、こころのデトックス(10)

矢野マミ

 

27.『死ね!』というアナタはもう死んでいる。

 機会を得て、ダンス・表現系のワークショップに参加してきた。2泊3日の丁寧に組み立てられた構成で、主催者の自信と熱意を感じられた熱い体験であった。コロナ禍を挟んでここ数年、様々なワークショップに参加してきたが、ひときわ思い出に残る、深く感情に訴えかける内容であった。

 語り口が歯切れ悪く、ワークショップの概要、詳細についても明らかにできず、既に過去形なのは、『そんな人もいるよね……』と他人事のように語りたいエピソードに遭遇したからだ。

 ワークショップに参加するにあたり主催者の経歴を確認して事前に連絡を取り、何度もやり取りを重ねて信頼できる人物かどうか自分なりに確認して入金し、参加した。そのプロセスには一切の迷いがなく、参加して良かった、と現在でも思っている。

 しかし「参加者は他の参加者を選べない」のだ。

 悪意や敵意の混じった黒いオーラを発散する参加者もいる。ワークショップでは、『場』を支配したい、という個性と個性がぶつかり合い、いくつもの小さな台風やハリケーンがうたかたのように発生し、消えて行った。トランスが訪れるのを待つかのように全員で踊り、歌い、叫び、跳ね回る時間があり愉しく参加した。一人一人、静かに自分と向き合う時間もあった。プログラムを中断して昼食を挟んだり、一緒に夕食を食べたりする時間もあった。清潔なお風呂や一人になれる時間もあった。

 しかし、たった一つの言葉で、その場は「安心できるもの」ではなくなった。

 「死ね!」

 個人別の発表の場で、ある人が明確に私を指さし、目が合った瞬間に発した。そして舞台を終えた。

 「何だろう? これ?」

 強い敵意を感じた。「今の、どういうこと?」すぐに反応したかったが言い返さなかった。言い返せなかった、ではなく、言い返さなかった。『怒りを静める6秒ルール』ではなく、ワークショップでの怒りは、ワークショップで返したい、「表現で返したい!」と思った。

 自分の番は舞台を自由に使える。次の番が回って来た時、シャツとスカートを順番に脱いだ。事前に仕込んでおいた妊婦用のスリップ1枚になった(※スパッツは履いています)。観客に向けて産婦人科の診察台の上のポーズで大開脚を何度か繰り返し「生まれて来て良かった!」と呟いた。

 ステージが終わるたびにあった拍手が、一切なかった。場が凍り付いたように誰も反応しなかった。自分では、大成功だと思っている。「死ね!」に対して、舞台上で、表現で反論することができたから。

 そして「ノーリアクション」は最高の賛辞だと受け止めた。主催者にはあとで「脚本書けば?」と声を掛けられた。大切な気づきと学びに出会えたワークショップ、ありがとう。

(※注、これは「まどか研究所」及び、原田広美さんご夫妻とは全く関係のないワークショップです)

 

 

28. 五行日記  ~イタリア人的なワタシに気づく~

 日記が苦手な私が続いている日記がある。五行日記だ。
 「続いている」と自慢したが、2023年10月30日からだから大した日数ではない。これを書いている時点で、まだ1か月にならない。何かを書くことが好きだが、自分の日々の日常生活を振り返る習慣がこれまでなかった。
 続いている理由はもう一つあって、この「五行日記」を書くのにピッタリ! の可愛い日記帳に出会ったからだ。二つまとめて紹介しておく。


『されど日記で人生は変わる』今村 暁 (著) 


ダイアリー・日記 midori ミドリ 刺繍しおり付 トリ柄

 毎朝、モーニングページも書いているが、こちらは自動筆記に近く、夜の間に浮かんできた夢のカケラやしっぽを書き留めておくようなものだ。
 それに対して、「五行日記」は毎回書くことが決まっている。
【朝に書くこと】
  ① 夢・目標  ②やりたいこと
【1日の振り返り】
  ③ 今日の出来事 ④感謝  ⑤成功法則

 ゆるく、ゆるく続けている。「夢・目標」は大抵、小説家になりたい、本屋さんを経営したい、などを毎日書いている。やりたいことは「作品を書く」など、それぞれに3つぐらい書いている。
 振り返りは、眠い時は次の日に書く。
 例えば、11月24日(金)の振り返りは、こんな感じだ。1行なので、自分にしかわからない。
 ③ 出来事…PMエステ、夕方まどか、夜フェリー
 ④ 感謝…広島のベス、お買い得
 ⑤ 成功法則…私は才能がある。書くことについて。(←原田さんにほめてもらった)

 この日は夕方、原田さんと面談でした。数日前に『時にはルーティンをはみ出してみては?』とアドバイスをいただいていたことを思い出し、観光フェリーの最終便にふらっと飛び乗りました。現在、『最後はなぜかうまくいくイタリア人』(宮嶋 勲著 日経ビジネス文書)を文庫本で読んでいることもあり、「寄り道」をWで楽しむことができました。
  “人生の醍醐味は、寄り道にあり。いつも仕事し、いつもサボる。空気は読んだことがない。”  
        ~『最後はなぜかうまくいくイタリア人』文庫本のオビより~
 ハハ、まるで私みたい(^^)皆さんも、五行日記、いかがでしょうか?

 

 

29.悲しみ五段活用 ~極私的「かなしみ」に関する考察~

 「悲しみ」という感情が正直よくわからない。

 父の遺体に対面した時も、母が下顎呼吸を続けていた時も、いつも自分を観察している冷静な自分がいた。この場合、どうふるまうのが正しいのか? 後から思い出すのはいつも部屋の斜め上空から俯瞰で映し出すカメラワークだ。そこにはじっとしている自分の姿も見える。その心持はわからない。

 記憶としては外側から自分を見ているものになる。捏造になるかもしれないが。しかし、自分の何かを守るために捏造しているのだろうと考えるとそれもまた健気で愛おしい。自分を守る自分が。

 

 『でんでんむしのかなしみ』という絵本がある。

 『ごんぎつね』で有名な新見南吉の作品だ。小学生の頃、国語の時間に『ごんぎつね』を読んだ。授業中は「どうしたら、ごんは死なずにすんだのか?」をいつも妄想していた。なぜ、このような可哀そうな話をわざわざ作って、国語の時間に子どもに強制的に読ませる必要があるのか、を考えていた。

 「でんでんむし…」は、美智子皇太后がお薦めされた作品ということで有名になり、私も手にする機会を得た。深く共感できた。中高生に絵本を紹介する機会がある時は、たいていこの絵本を選んでいる。


 『悲しみよこんにちは』

  西洋菓子、ドラジェを彷彿とさせる甘さを感じさせるタイトル。内容的には私好みではない。

 『悲しいほどお天気』

  ユーミンが歌手、音楽家として成功したのは美術を専攻した過去があるから? と思ってしまう。


 『happy sad』

   ピチカート・ファイブの名曲。

   「真夜中のターンテーブル ただ廻り続ける。

    踊りたくないなら ひとりで踊る。

    いつだってhappy sad」

 上記3つはタイトルに、「悲しい」と「こんにちは」「お天気」「happy」というどちらかと言えば肯定的な意味の単語を掛け合わせてあるところに共通点があると気づいた。


 「悲しい時に悲しい顔をしない」

 柴門ふみが『東京ラブストーリー』で大ブレイクする前の佳品(「P.S.元気です俊平」だったかな?)の中でサブキャラ桃子さん(だったかな?)にかぶせてあったモノローグ。

 30年以上前に読んで記憶の中に沈殿しているセリフ。セリフだけがくっきりと残っている。このエピソードをマネして、フラッパーのパーマをかけたことがある。意外と似合って、評判が良かった。

 「悲しみ」とは、そんな感じに少し距離を置いてつきあっている。