池田一氏との協働と共著執筆について

小森俊明

 

 アース・アーティストの池田一氏は、水を切り口とした環境アートの世界的な展開で知られている。これまでに筆者は、タージ・マハル旅行団の流れを汲むフリー・インプロヴィゼーション・ユニット「空観無為」のメンバーとして、池田一氏のパフォーマンス・アートやその記録映像作品とコラボレーションを重ねて来た。そしてこの度、池田氏との共著、『池田一地球環境アートシリーズNo.1 日本のアート文化の〈今〉を撃つ!』(TPAF刊)が出版された。監修者は、「空観無為」の中心メンバーでサウンド・アーティスト/仏教美学者/編集者/著述家の河合孝治氏である。
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 本書では、現代アートの文脈には収まりきらない、地球規模の環境アートを展開されている池田さんの主要プロジェクトを、ご本人による素描、私による読解、2人による対談という3段で構成しており、これらを通読することにより、イケダ・アートの拡がりの様相が立体的に浮かび上がって来る仕立てとなっている。

 池田一氏とは、先述したようにこれまで舞台公演の形でコラボレーションを重ねて来たものの、共同執筆は初めてである。池田氏の仕事については、氏が水をテーマとした大規模なアース・アート作品を手掛けるようになった1980年代後半以降、さまざまな批評家や研究者が分析を行い、書籍や雑誌で発表がなされて来た。しかし、本書のように、美術の領域以外で活動する人間が同様のことを行うことは無かった。今回の執筆・刊行の契機は、私が試みた池田作品の読解が単に分析や批評に留まらず、表現者の現場感覚に基いた内容となっていることを、池田さんご本人が高く評価して下さったことによる。そして、どの章あるいは節をお読みいただいても、その切り口はアートと環境のみならず、社会、政治、経済、建築、都市、音楽と越境して展開されており、イケダ・アートがアートに限定されないことの必然性を理解していただけると確信している。

 先述した通り、今回、美術家ではなく、あくまで音楽家である私が執筆者としてご指名を受けたことを光栄かつ誇りに思うと同時に、その意義を噛み締めているところである。それと同時に、今まで音楽とアートに限定されない、さまざまな領域の渉猟とそれに基く思考を継続して来たこと、アート、音楽、政治・経済の領域における既成の権威主義への異議申し立てを継続して来たことの成果の、一里塚を示せたのではないかとも考えている。