ゴーレム佐藤 夢日記『真っ白な闇』 ゴーレム佐藤 目を覚ますと天使が僕の上に浮かんでいる。 背後の光輪はどこまでも眩しく天使は微動だにしない。動いてはいけないような気がして暫くはそのまま枕に頭を沈めていた。 だんだん意識がはっきりしてくるといろいろ考えを巡らす僕がいた。... ゴーレム佐藤文学
文学 短詩「花花は」 田中義之 草草の名は知らぬらし花花は名は知らぬらし花の咲く咲く 草咲くや名は祝い花八草咲く 鬱という字面の中の暗闇にしばし躊躇いやはり飛び込む 俳諧の人に非らずと皆の言う 毛並み良き我が飼い猫の背を撫でて天使の髪は何色か知る 子猫の子走らぬ... 文学田中義之
大輪茂男 [特別寄稿]舞踏小説『鹿のヴァイオリン』 大輪茂男 1 城壁の街ポロロの祭の晩のことである。 湖のある丘陵を渡る風の中でバターや果実を作り出す草原の住人や、遥かな雪山の峰の彼方に神々の水浴場があると信じている森の住人たちも、この日ばかりはポロロの街を目指してやってくるの... 大輪茂男文学
まどろむ海月(西武 晶) 詩画集『春の頂 から』 まどろむ海月 透明な道で すれちがった時 ささやいたのは 君だったのか… 「幸せの頂を見るのが 春の役目だ。」と 長い旅姿のままの 私の冬(かなしみ)よ 水面の きらめきが 遠くから 広がった 扇のように くりかえし くりかえし 君の 遠い... まどろむ海月(西武 晶)文学
文学 詩「生き物ソネット」四篇 飯島章嘉 第一篇 犬 転がる空き缶を追う犬 犬は追う生き物だ しかし犬は追わない 目前の暗闇を 餌の残りを掘った穴に隠す犬 犬は穴を掘る生き物だ しかし犬は掘らない 飼い主の墓穴を わたしはそれを不誠実だと考える 少なくともわたしだったら ... 文学飯島章嘉
北條立記 短編小説『憐れに憐れな、そして憐れよ!!』 北條立記 1 電車にて 杖つく背の低い老婦人、草色のワンピース姿のぱっちり目の妊婦、ヘルプマークをリュックサックからぶら下げた16歳くらいの女の子、松葉杖で疲れて苦しそうなサラリーマン。全部無視して50分間シルバーシート、そのドア側の所に... 北條立記文学
文学 ユーモア小説:シン・コンペイ島綺譚 (2) 田中義之 ●シン・コンペイ島綺譚 特別篇 ★序章 コンペイ王達とは違う時系列に、つまり、数十年前。テリアのお交りの桃子は、ひなちゃんと同じく、お散歩をしている。桃子もまた一点を見つめているのだった。ひなちゃんが、見つめていたのは、赤ら顔... 文学田中義之
文学 小説的断章『絶歌』 写真©松岡祐貴 求道鞠(グドウ・マリ) マリの舌が、火がついたようにひらひら燃えている。 舌禍だ。 ゆらゆらと、ただれおちる寸前の舌をあわや冷えたスプーンでささげもち、何があったのかと詰問すると、さすがはマリの舌、饒舌な舌たらずで甘えた... 文学求道鞠
文学 小説『思い出』 矢野マミ 若い頃のほんの一時期、都内で教員をしていたことがある。都内と言ってもまだまだ田畑の残る地方都市の趣のある街だった。 男子が9割を占める工業高校で、私は国語の教員として勤めていた。 いつものように仕事を終えて帰宅すると、事件の第... 文学矢野マミ
文学 詩)旅の途中で 飯島章嘉 いつの間にか 来てしまったここへ聞こえる誰かの呼ぶ声声、音の震えが日差しを揺らしている風?風ではない声 声が流れてせせらぎに浮かぶ草の葉をなぶる水か 水ではない。それは水の声私の声 もう聞こえない何もしかし日差しが揺れている 風?... 文学飯島章嘉