北條立記 短編小説『赤子の皺』 北條立記 その赤子の手の甲には、深い皺があった。 気になり上着を脱がせてみると、背中の右上にも皺があった。 左の二の腕にも、臍の上辺りにも、右のふくらはぎにも皺が刻まれていた。 目の下には大きな隈がある。 目玉は赤く充血している。... 北條立記文学
南清璽 連載小説『天女』第二回 南清璽 この日、令室は、ハ短調の楽曲を所望された。当初、ベートーヴェンのピアノソナタをと考えたが、独逸国の留学時に楽譜として手に取ったシューベルトのピアノソナタが忘れられず、知己を通じ、その楽譜を借りた。今回のサロンでの演奏は、令室が、女... 南清璽文学
南清璽 連載小説『天女』 南清璽 迂闊だった。その場を和まそうと微笑んだのに過ぎないのに、当の令室は、それを嘲りと捉え、例の如く、私に、折檻を施そうとするのだった。 大凡、彼女の面前で、微笑みを浮かべること自体禁忌だった。それは、先にも述べたとおり、嘲りと捉える... 南清璽文学
まどろむ海月(西武 晶) 詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅲ まどろむ海月 見上げた月は 皓々として 雪景色の深い谷の 底にまで 光を落としていた 白い中空の湯のなかで 魚のように戯れたね 紺青の空に 雲 高原の蒼空を 何日も さまよった 大空の神聖な変貌 永遠の高みへの 憧れと祈り その彼方に君はい... まどろむ海月(西武 晶)文学
文学 詩二篇『家族譜』より「書かれた―母」「書かれた―父」 飯島章嘉 書かれた―母 「家族譜」より 母は 捨てる 真昼に閉じた雨空へ捨てる 滑空する白色の鳥が堕ちる所 そこに堕ちる母のものを捨てる 湿地帯に隠された 母の書いたもの そこに堕ちる母のものを捨てる 滑空する白色の鳥が堕ちる所 真昼に閉... 文学飯島章嘉
ゴーレム佐藤 夢日記『それは極上の天気の日だった』 ゴーレム佐藤 読み合わせは合同で行うことになった。場所はとある電鉄の終着駅から降りて徒歩で行ける小島だ。潮が引いてる間は砂州によって島まで陸続きになる。僕らは駅で待ち合わせた。初の顔合わせになる女優と同じ列車に乗った僕はホームのベンチで残... ゴーレム佐藤文学
ゴーレム佐藤 夢日記『バカンス』 ゴーレム佐藤 キューバはハバナ。 気持ちのいい風が吹き抜けるアパートの一室で僕は、ゲバラ、カストロそして元恋人の彼氏と麻雀卓を囲む。もうもうと立ち昇るコヒバの煙で手元も見えない中、ラムをあおりながらだらけた勝負が続く。抜け待ちのヘミング... ゴーレム佐藤文学
文学 ある小説に関する思い出 田中義之 『孤高の豚』って云う短編小説を書いたことがある。主語は、三人称複数。ある独裁国家の元首の存亡(実は安泰)を、民衆側から描いた物で、多分にガルシア・マルケスの『族長の秋』の影響がある。 「『孤高の豚』と彼らは呼んだ。それが、蔑称... 文学田中義之
まどろむ海月(西武 晶) 詩画集『春の頂から』ー 君のいる風景Ⅱ まどろむ海月 午前の森の中に 七つの池を巡った エメラルド色を湛えた 太古の静寂は やさしい風をふくむたび 燦めく微笑みを見せた 僕たちの前の 永遠の現場 蒼空の中には 白い幻のように わきおこる思いと とめどないあこがれが その影を落とし... まどろむ海月(西武 晶)文学
文学 怪奇心理小説『愛紅始め』『駒込白馬堂』 田高孝 『愛紅始め』 その子は、同級で、月一の定例のプラネタリュームを見に行く会のメンバーの一人だった。その会は、私が、提案し、中学時代に行なった。仲良し4人組である。 いつも、駒込の上の方の改札で、待ち合わせ、日曜日に、渋谷の東急の五... 文学田高孝