文学

南清璽

掌編小説『バレリーナ』

南清璽 「二人とも、あなたのことが好きって。パパになって欲しいって。」 「そんな、戯れ言を。」  正直、ドギマギとした。何食わぬ顔でムースチョコのケーキを食べる。先日のバレエの公演で会場に連れて来ていたことを思い出す。確か四歳の男の子と二歳...
文学

松岡祐貴・歌詞集~7つの星、幸せを求めて

松岡祐貴 『真実(TRUTH)』(作詞作曲:松岡祐貴 編曲:BUS Production 管理:avex) あなたの優しさが時に愛の名になり繰り返す程残酷な物語だからこそ地獄さえ這いずり回ってなんとか希望探してTRUTH IS MY HEA...
文学

詐欺師糸子(2006年夏~2007年冬)

タコウ タカシ  黒い話が多いので、明るいイメージのあるほうへ。 私は、詐欺師に狙われたことが、ある。それも女の詐欺師グループに。  さて、どこから話そうか?そう、あれは、母の介護が始まった頃のこと。2006年夏。いつもの酒場、西ヶ原の酒処...
エッセイ

夢日記『逃げろ』

ゴーレム佐藤 『逃げろ』 出来る限りの食料をカバンに詰め、娘の手を引いて物音立てぬよう静かにドアをあける。午前二時を回ったところだ。確か通りとこの路地の交差するところの林に乗用車が一台止まっていた。問題はどうやって音を立てずに出来る限り遠く...
冨田民人

【新刊詩集より】バリバリ

冨田民人 わたしは某国 T 市立病院に入院している。わたしは体中線に繋がれ電気で生かされている。カラダの動きは劣化したまま維持されている。観るものが幻であろうが現であろうが脳の動きは豊かでありたい。鳩どもが糞尿処理もしないまま楽しんでいる。...
文学

生き物ソネット三篇 

飯島章嘉  鷹   荷を負う人々の足裸足の足裏に小石のむごく食い込むしかし頓着はない人々が見上げているのは一羽の鷹 苦役に口を開き前後の者を探す目は黄色い荷の重さは一刻一刻と肩を歪め頭上に日はないが鷹はいる 鷹よ お前は眼下の営みを解さない...
文学

【本格小説】野いちご物語 ~Vol.0 トラ猫先生ミーちゃん~

矢野マミ  白い影が、美術室後方の扉のガラス窓をふぅわりと漂うように横切った。「まっ昼間なのに、ゆ、幽霊!?」神沢美以は教卓の中央で正面を見ながら、目の端で廊下側を意識して待っている。やがて美術室の前の扉の向こうをのんびりと歩く白衣を確認し...
まどろむ海月(西武 晶)

【詩画集Ⅳ】ある魔ものの伝説

まどろむ海月(西武 晶) 昔々 限りない闇の中で 魔ものがまどろみ漂っていましたあるとき魔ものは 自分の混沌とした長いまどろみの中で 世界を夢見ましたすると 星空の下の世界が現れ やがて朝になり 陽が昇りましたこうして その魔ものは 光の下...
まどろむ海月(西武 晶)

 【詩画集Ⅲ 】エフェクト

まどろむ海月 もうずいぶん昔のことですが 雲になって しばらく漂っていたころ  つめたい風にさらされて あてどなくさまよう 若い女性を見ました。 騙されて身も心も傷ついた恋の鋭い痛みに われを失っているのでした。 深い悲哀が 彼女の姿を霞ま...
文学

「ケム―ル人」

飯島 章嘉 ケム―ル人・・・空想上の宇宙人。テレビシリーズ「ウルトラQ」に登場してからたびたび「ウルトラ・シリーズ」に出没している。細身の身体は縮小したり、また巨大になったりもできる。細い四肢としなびた茄子のような頭部を持っており、その頭部...
和田能卓

童話・バラの泉の女神さま

和田 能卓 むかしむかしのそのむかし、バラの泉の女神さまに守られた、小さな国がありました。 女神さまがいらっしゃるバラの泉は都の真ん中。旅人も足を止めて、疲れた体を癒(いや)したものでした。 泉には女神さまの像があって、平和の守護神として、...
南清璽

『天女』第九回

南清璽    看護婦は、丁度、張り紙を貼ろうとしていた。しばらく休診するという内容だった。  「おはようございます。」  私を認めたその看護婦は、訝しげに、全くの儀礼に過ぎないとの程で挨拶をした。  「おはようございます。あそこの産婦人科で...
ゴーレム佐藤

夢日記『広末涼子』

ゴーレム佐藤 うつつの夜が続く。眠い…眠いんだけどちゃんと眠れない。眠ったと思ったら目がさめて10分しかたってない。でも眠いから動けない。目を瞑ると目が冴える気がしてしまう。朦朧としながら動けないでいる。夢か現か、ってか夢だよな。長い夜だ。...
北條立記

洋梨の上に喜んで

北條立記   大きな洋梨の上で、色々な果物がなる木を育てる女性。 その繊細な指で果物の手入れを行い、この世にないオリジナルな果物=ラ・パトゥーセウィシトスを育て作ろうとしている。 その果物は、食べるとお腹の中からほんわかして、目が覚めるよう...
文学

フェニックス六首

田中義之   ふらふらと心と体揺れながら新しい事探してはどう 偉くなく少し考え息をするそれでも僕は生きながらえる 人間と猫族の差は心意気あってもなくても微笑んでいく 月明かり体に浴びて散歩する月光はやはり詩歌の元素 首振るとおかしいのかと思...
文学

三つのソネット

飯島章嘉  Ⅰ.  詩人の憂鬱 我々は我々のもっとも好む方法で詩をつくるが 死はつくり出せない 我々は泡を吹く蟹のように 横ばいになりかなしむ 詩人の憂鬱について 我々は充分に討議しあった しかし死人の快楽については 沈黙するしかなかった ...
ゴーレム佐藤

夢日記『風景』

ゴーレム佐藤  気がついたら煙草がフィルタのところまで灰になっていた。 あわてて灰皿に押し付けた時、いきなり風景が見えた。 蒼い海。蒼い空、風までもが蒼い。  などということは微塵も無く、眼前には渋い顔をした女が一人。ナチュラルに魅せようと...
南清璽

連載小説『天女』第八回

南清璽  診療所の勝手口。やはり、産婦人科ならば、玄関よりお邪魔するのは、控えるべきなのだろう。  「すみません。急患です!」  声をかけてみた。ドアの向こうの物音で少々気が止んだ。何分、数度は、試さなければならなと踏んでいたからだ。  「...
北條立記

小説風エッセイ『心象の中の少女』

北條立記  自分には、心象の中の傷付いた少女というのがいる。  ヨーロッパの心中映画では、最後はピストル自殺だ。ベッドサイドで恋人を撃ち、男性は彼女をやさしく寝かせ付け、その横に自分が横たわり、こめかみを撃つ。  私の考える心中は、そういう...
南清璽

連載小説『天女』第七回

南清璽  「待って下さる?」  その声には幾分か重みがあった。でも、これは聞こえがいい様に言ったまでで、もう年増にかかろうとしている年頃だったから、生娘の様な声は持っていなかったのだ。だが、その声の深みには、何某かの知性を感じた。彼女には正...