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まどろむ海月・詩、田中義之・イラスト
Ⅰ
誰が投げたか 空の底に小石が一つ
果てのない青い花の野に
生まれたばかり白の風紋は旅立つ
それは水溜りに揺れる夏の楽譜
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硝子のまぶたに透ける午後
昼の月は淡く微笑む
飛ばした紙飛行機に 少年自身が乗っていて
誰も傷つけたくない老人は
緩慢な死に向かってボートを漕いでいる
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揺らぐ陽炎の運河を
銀海へ航行する豪華客船
紙吹雪 絡まり乱舞する十色テープ 花火
気をつけて 白鳥座の近くに 巨大な氷山が
炎夏の危ういバランス
遠い微笑みは秋の水に浮かんで
自転車の人は倒れない
走り続けているかぎり
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建物の隙間には虹彩の文字盤
少しゆがんだ時を刻むのは
黄昏の灯火に誘われているから
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白い虹の海辺から
セピア色の距離へと少女の足跡
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星の瞬きがせつない夜
死者たちを悼む竪琴に
銀河をゆったりと泳ぐ白鳥
見送るいるかは 初恋を抱えたまま
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Ⅱ
炎の涙が昇華し
散りばめられた光彩の
上空を切る高圧線の名は
一瞬に置き去りにされる
はなやぎの漣が広がり
煙の巨人は叫ぶが
底知れぬ闇は隠された
消えては映る木霊と
思い出の紫陽花を浮かべて
やがてすべてが銀河とともに 退いていく
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遠い夜の街の哀しみに
流れ落ちてやまない星
願いは燃えても沈黙は深まり
海月と海星は寄り添うが
それは 地平の彼方の儚い出来事
![](https://madokainst.tx-d.art/wp-content/uploads/2022/11/b1db37a1df6c6332fc8bdf704e9d1e49.jpg)
存在を隔てる罪と罪の狭間は
僥倖たる生を無意味化し
林檎は手からこぼれ天使は
全能者の御許に去っていった
ええ あのひとは もどってはこない
もう…
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ねえ 星影の湿ったところから
薄明は抜け出したよ
風に腰掛けていた夜明けは
川上に揺れる微笑を流している
大気の重力から解き放たれて
心を支えつづけた友の
顔さえ見ずに歳月は過ぎ
生死の境のあいまいな関係に
朝は久しくまどろんだまま
そびえ立つ波のすべてを 受けとめている . . .
![](https://madokainst.tx-d.art/wp-content/uploads/2022/11/ad328257df3c27d0237be29c2f1fd87c.jpg)
Ⅲ 紫陽花よ
黄昏たちの回廊
夕闇に漂う影が伸び
遊び疲れた風がぬける
空の帰り道
からん からん
温かい背中に燈った
川面のまどろみ
紫陽花の青の向うに
匂い立つ夜の静けさ
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蛍を追いかけた
影絵のような
少年の憧憬
風にさらされ
月明かりで見た
ビー玉の中の
遥かな星屑
に重なる
山の彼方への旅
ああ ほんとうに
何が 人のさいわい
なのだろう
街灯りが
とおく とおく
M67星団のようだね
紫陽花よ
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