観劇の感激を呼ぶ作法—音楽と裏方の「体験」があるダンス公演—

北條立記

 2023/4/22藤村巷平プロデュースダンス公演「PreDanceMusic」@神奈川県立青少年センターHIKARIを観劇して

 

 開演してからリノリウムを引く、椅子を置く、ステージに照明卓があって演者が操作しながら公演が進む……という「裏方」を見せながらの公演。

 セッティングを済ませてからの開演でもなく、開演してから全てのセッティングを始めるわけでもない。最初から適度に椅子や譜面台など道具が置かれ、「開演」を告げてから、残りの椅子などのセッティングを加える。そのバランスが面白く感じた。

 公演の冒頭の挨拶とアフタートークとで、手短に公演趣旨を話して伝える。そのことについても、トークのコンパクトさが、公演全体の中でのメリハリがあった。

 トークでは、「ダンスパフォーマンスにおいて、ただ音源を再現する形で音楽を使っても、本当の『体験』の場は作れない」という考えが述べられた。

 だから音楽は生演奏で、それが公演のために作られた音楽で、しかも裏方の作業を見せるようなことにこだわり、「体験」が作られる観劇になっていたと思う。

 

PreDanceMusic ©️飯山福子

 


 西洋ルネサンス音楽、バロック音楽を取り入れた、この公演のために作曲されたフルートとギターの曲。

 リュートなどで演奏される当時の「涙のパヴァーヌ」のような、ポロンポロンと奏でられるバロック・ルネサンス音楽が、取り入れられていたようだ。

 終演後、本公演のプロデューサーで出演ダンサーの藤村氏と立ち話をさせていただいたが、現代音楽とバロック音楽(およびそれ以前)とは共通項が多いという見解で一致。

 それらの間の時期にあるのは、ロマン派のオペラやオーケストラ曲のように、盛り上げてクライマックスがいくつも出てきて感動を呼ぶような音楽だ。

 それに対し、筆者の考えでは、現代音楽やバロック音楽は(それらの中、特に現代音楽にはいろいろあるとはいえ)、共通項として、

 

  • ロマン派的な重厚な感情表現と違う簡素さ
  • さらっとした開放感
  • クライマックスという中心点を設けるのとは少し違う
  • ビブラートが控えめ
  • チェロなどの擦弦楽器で言えば平均律から外れる微分音程
  • 24の長短調と異なる音階(バロック・ルネサンスなら教会旋法、現代音楽なら民族音階など)

     

といったものが挙げられる。

 

PreDanceMusic ©️飯山福子

 


 そして、今回使われていた音楽は、現代音楽で言うミニマル音楽的でもあった。

 ミニマルミュージックとは、「最小表現主義」の音楽で、音を最小限に選ぶ結果として、反復性が強いことが多い。

 しかし、反復の中で揺らぎがあり、増幅されていくものがあるのがミニマルである。

 この公演でいえば、ギターがある種のミニマルで、その音の中で踊られたダンスが反復的かつ増幅性を持つもの、というのがパフォーマンスの一面だったと思う。

 つまり、ダンスは、3メートルくらいを往復運動しながらも、手先からの多様な表現を入れながら身体全体を解体的に生かすという、本格的なコンテンポラリーダンスであった。

 また「ねえ、ねえ、ちょっと」のような手先での語り掛けや、相手が前にいて共感するような頷きのような仕草も印象的。

 音楽も、古い時代の音楽の、組曲などの形式に範を取りながらも、すーっとしたコンテンポラリーな雰囲気。

 音楽とダンスに、それぞれ古楽とかバレエの体捌きみたいな古典芸術表現をベースにした深みがあり、それとともに、言わばユニクロ的というか、現代的な明るい垢抜けたイメージがあって、新鮮さを感じさせる公演だった。

 

PreDanceMusic ©️飯山福子

 


【公演概要】

「PreDanceMusic」

企画:藤村巷平

出演:藤村巷平(ダンス)、タツキアマノ(作曲・フルート)、丹羽青人(ギター)、池ヶ谷奏(ダンス)

日時:2023/4/21-4/23

会場:神奈川県立青少年センターHIKARI

 

PreDanceMusic ©️飯山福子
PreDanceMusic ©️飯山福子

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