ミスターポンパン

若月小百合

 

この記事を書いたのは、2003年、こういう手作りの物に興味を持ったなんて、私自身とてもアナログな人間なのでしょう。何故、今、ミスターポンパンなのかー。

麻布十番にタイレストランを開くことになりまして、1年半ぶりにタイへお店の備品を買い付けに行ってきました。 No. 32のナコンパトム県のオンプラパトムチェディー祭について書いた記事を覚えて下さっている方はいらっしゃいますか。このお寺では、毎晩、お祭りのように屋台が立ち並んでいます。お寺で場違いではないかと思うのですが、宝くじもずらっと並んで売っていたりします。何でもありのここがタイの面白いところです。ライチジュースとスイカジュースの入ったビニール

袋を片手にぶらぶらしていると、竹串に薄い紙で星型に切ったものを貼り付けた手作りの凧を持ち歩いているおじさんとすれ違いました。呼び止めて30本程買いました。序に、「ポンパン」というセロハンで作ったデンデン太鼓とブンブン回す「チャカチャン」を作っている人を知らないかとそのおじさんに尋ねると、なんと自分だと言うではありませんか。私は大喜び。というのも、これらのおもちゃを売り歩く人達は減ってしまって、「買えるかどうかは町で、その人に会えるかどうかの運にかかっている」と家族から言われていたからです。明日、お昼の1時に家に来て貰うように頼むと、このおじさん、にっこり笑って、ピッカピカに磨かれたアナログの腕時計を見せながら「この時計があるから大丈夫」と、自慢げに言うではありませんか。最後に名前を聞くと、何故かなかなか返事が返ってきません。タイには戸籍のない人達も多いので、『身分証明書がなくて、本当の名前がないのかなぁ』等と想像していると、思いついたように「ポンパン」と言いました。この時は、単純にポンパンポンパンとなるデンデン太鼓の呼び方と同じだとくらいにしか感じませんでした。ポンパンさんは、「新秘密兵器を持って行くから楽しみにしているように」とも言いました。次の日、タイには時間にルーズな人も多いのですが、ポンパンさんは時間通り、例の秘密兵器を持って来てくれました。それは、ポンパンと龍が合体して、その龍の体が伸びるものでした。日本にも私が子供の頃は、お祭りで、この、紙が伸びる手作りおもちゃが売られていました。よく父親に買ってもらったものです。流石に龍の頭とポンパンは付いていませんでしたが・・・。これが秘密兵器・・・?みんなで大笑い。ポンパンさんは真っ黒に日焼けしていて、歯が全部ありません。そのせいか愛嬌があります。裸足になった足にはくっきりとゴム草履の跡があります。『中国人だと言っていたので、元は白い肌だったんだなぁ・・・』。それにしても、腕時計がやけに眩しい。私の子供を抱っこして振り回して喜んでいるポンパンさんになんとなく興味を持って色々質問しました。何と、彼は名前がないどころか、100個も自分の名前を持っているというではありませんか。売り歩いている場所によって「チャカチャン」と呼ぶ人もいれば・・・、そうなのです。おもちゃの名前でその土地その土地の人が色々と彼を呼ぶので、名前がありすぎて、どれにしようか迷っていたと言うのです。本当の名前はちゃんとあるそうです。お父様から教えてもらって、幼い頃からおもちゃ作りをして売っているそうです。年は驚いたことに65歳で、もっと若いかと思っていました。奥さんはいないけれど、子供はいると言っていました。でも、子供達は自分が厳しすぎて、おもちゃ作りを習おうとしないそうです。教える時は鞭を使って鬼になる、と言っているポンパンさん。でも、おもちゃに張られたハート型や、クマさんの絵の切り抜きを見るとポンパンさんの優しさが覗えます。自分しかこれらを作る人がいないことを誇りに思っているようにも聞こえました。「ポンパンさんの事を日本人に紹介したいのだけど・・・」と言うと、「自分はもの凄く苦労をしたんだ」と言い出すなり、ペラペラペラペラ話し始めました。何でも、学校に履いていく靴がなく、タイヤを切って紐で巻きつけて靴にしていたそうです。制服は一枚しかないので、夜洗って干すと、次の日、乾ききれていなくて足も体も臭くて臭くて、みんな我慢できない程だったそうです。とうとう先生が同情して、靴と制服を買ってくれたのだと話してくれました。同情する話なのに、ポンパンさんの言い方がおかしくてみんな大笑い。こういう人に会うと、実に力が湧きます。『人間、何もなくてもどんなことがあっても生きていけるんだなぁ・・・』と。うまく言えないけれど、『ポンパンさんのように生きていけるんだなぁ・・・』と。その次の日、ポンパンさんは約束どおり300個のおもちゃを持って、やはり時間どおりに来てくれました。私は在庫がいくつあるか散々聞いたつもりだったのに、注文した数を徹夜で作ったそうです。ポンパンさん、ヘルメットを被ってバイクで帰って行きました。タイでは近所に行くのヘルメットを被る人はあまりいません。『ポンパンさんって、本当にまじめな人なんだなぁ』と思いました。

 

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